番外編 鬼ごっこ
〈それでは、第二ゲームの始まりです。今から一分後、鬼が放たれます。プレイヤーの皆様は逃げて下さい〉
スマホが切れたすぐ後に、若い男性の声で館内放送が流れた。その声は、スマホから流れた声によく似ていた。
まるで、閉園時間を報せるような普通の館内放送に、松井と村山はキレた。
近くにあった資材に当たろうとしたが、何とか思い止まる。
下手なことをして、いらぬ敵を呼び寄せる真似は避けたい。確かに、今すぐ中川をぶっ殺したい程キレていたが、キレ方が深かった分、松井と村山の思考は妙に冷静を保っていた。
((楽しんでやがる!!))
松井と村山は心の中で毒づく。
スマホと館内放送の声は、明らかに楽しんでいた。
まるで、これから起きることを楽しんでいるようだった。
松井と村山は、そこまで自分が恨まれていたことなど知る由もなかった。ただ、からかって遊んだだけだ。ちょっとお金を巻き上げたが、たかが知れている。命の危険に晒される覚えがない。
今この時点でも、自分たちに非はそれ程ないと、松井と村山は思っていた。
だからこそ、この理不尽なゲームに勝たなければならない。
そして、された事を倍返し、いや、それ以上の制裁を加えてやると、松井と村山は心に深く刻み込む。
中川も同じ気持ちを抱き、今自分たちが追い込まれていることに、悲しいことに松井と村山は気付かない。
「とりあえず、行くしかねーな」
「ああ。こうなったら、なりふり構ってる余裕はないな」
松井と村山はお互い頷くと、物陰から飛び出す。
二人の背後で、物が壊れる派手な音がした。無意識に、松井と村山は振り返った。
その目に、人形と資材を破壊している者の姿が映る。
その姿はーー
まさに、彼らが知る〈鬼〉そのものだった。
巨体な体を持つ鬼。
人間の皮膚とは明らかに違う色をしていた。頭には二本の角が生えている。
薄暗い筈なのに、不思議とはっきりとその姿を確認出来た。
松井と村山は慌てて視線を外すが、本能的に感じ取った。
自分たちが鬼と目が合ったことを。そして同時に、鬼の標的に自分たちがこの瞬間なったことも。
((走れ!! 逃げろ!! 捕まったら、間違いなく喰われる!!!!))
必死で逃げる。
背後の音が段々近付いて来る。
松井と村山は後ろを振り返らない。
目の前には、エレベーターが扉を開けて自分たちを待っている。
灯りが付いたエレベーター……
後、五メートル。
四メートル、三メートル、二メートル、一メートル。
転がり込むように、松井と村山は飛び込む。慌てて、村山は開閉ボタンを連打する。
ゆっくりと扉が閉まっていく。
閉まったと同時に、扉に体当たる大きな音がした。鬼だ。内側に向かって、扉が大きく変形する。
松井と村山は少しでも扉から離れるように、鏡に背中を張り付け座り込む。
僅かな隙間が中央に出来た。その隙間から、鬼が覗き込む。
ーー視線が合った。
松井と村山は逸らせることが出来なかった。
震えながら、その視線を受け止める。
鬼は悔しそうに、一度激しく体当たりすると消えた。
「…………行ったのか?」
「…………俺たちは助かったのか?」
松井と村山は力ない声で呟く。
ーー鬼は消えた。
俺たちは無事ゴールに辿り着いた。
村山は震える体で何とか這いながら、一階のボタンを押した。エレベーターは動き出す。
「動いた!! 助かったーー」
ぞ。という言葉を音に出来ずに、村山は固まる。後ろを向き、松井を見詰めたままでだ。
「村山。ここでそんな冗談するんじゃねーよ」
村山の様子を見て、松井は顔をしかめる。
「……中川」
村山は呟く。
その声に、反射的に振り返ろうとした松井だが、ピクリとも体が動かない。まるで、金縛りに合ったかのようだ。
松井の肩に重みが加わる。
松井と村山の全身から冷や汗が溢れ出てきた。全身がベトベトだった。その不快感も気にならない。
ただ、恐怖がこの場を支配する。
「惜しかったね。松井君、村山君。もうちょっとだったんだけどね。……アレ? なんか、不満そうな顔をしてるね。二人とも。僕は一言も言ってないよ。鬼は一人だけとはね。……最後の最後で鬼に捕まった。ゲームオーバだよ」
そう中川が笑いながら言った途端、松井と村山は意識を失った。
お待たせしましたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
番外編最終話は今日更新予定です。
お楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




