第七話
一晩じっくり考えて貰った結果、大人組は月竜教の償いを受けることを選んだ。
昨日のうちに償いや治療はちゃんとして貰えるのかと相談を受けたが、その点は我々が確認をして必ず意志に沿う形で実行させると約束した。
そして、フランの意思は変わらなかった。
フローラにも話を聞いたが、やはりフランの希望を尊重するということだった。
最後の悪あがきで俺も何とか説得を試みたのだが駄目だった。
リトヴァも一言、『最悪の結果、人として生きることが出来なくなるかもしれないがその覚悟はあるのか?』と静かに聞いたが、真っ直ぐな目で力強く頷いた。
それを見たリトヴァに『意志は変わらないだろう』と俺が説得されてしまい……。
「ユリウス様の血がいいな。リトヴァ様は女性だから。女性の血を舐めるなんて」
「そっか。フランは紳士だね」
「直接傷口を舐めるのはやめておけ。フランは体も小さい。極力微量にした方がいいだろう」
「そうだね」
布に一滴俺の血を垂らし、それを舐めて貰うことにした。
「本当にいいんだね?」
「ユリウス様は心配性なんですね」
布を渡しながらもしつこく問いかけると、フランはクスリと笑った。
出来れば止めて欲しいと今でも思っているが、それは叶わないようだ。
万が一を想定して、フローラには別の場所で待機して貰っている。
異形の姿になって暴れ出す、なんてことはないように神に祈りたい……って自分が神様だった。
「ねえ、リトヴァ……」
「フランが決めたことだ」
「そうだけど、子供が決めたことだよ? ここは大人の権限……っていうか神様の権限で止めるべきじゃない?」
「夕べ話しただろう? フランを一人の男として認めてやろうと」
「そうだけど……」
「しつこいぞ。君も腹を括ってやれ」
「……」
こちらの世界では大人として認められる年齢は定まってはいないが、元いた世界よりは断然早い。
フランは年齢的には微妙なラインだが中身がしっかりしている上意思が堅いので、大人として認めようというのがリトヴァの意見だった。
何回も同じ議論を繰り返しているししつこいのは重々承知しているが、やっぱり怖い。
変わり果てたエリーサさんの姿がこの目に焼き付いてしまっているように、フランのことを考えているときは常に視界に浮かび上がってきているように見える。
「じゃあ、舐めてみますね」
「あ、待って!」
あっさり決行してしまいそうなフランを止め、正面からギュッと抱きしめた。
俺の血を舐めたら……俺の血のせいでフランの人生を壊してしまったら……。
嫌なことばかり頭に浮かぶけど、俺も覚悟を決めよう。
「大丈夫だよ。俺だって元人間なんだから」
「そうなんですか!? あの御伽噺って本当なんですね! 凄いこと知っちゃったなあ」
『じゃあ、きっと上手くいきますね!』と微笑むフランの頭を一撫でし、体を離した。
俺とリトヴァが見守る中フランが両手で布を握りしめ、準備に入った。
流石にいざその時となると恐ろしくなったのか、強く布を握ったままで動かない。
「やめてもいいんだぞ? もう少し成長してから試してもいいんだ」
言おうとしていたことをリトヴァに言われてしまった。
あまり反対する姿勢を見せていなかったが、やはりリトヴァも止めたい気持ちはあるのだろう。
「……いえ、もうすぐリトヴァ様のお姿がみることが出来ると思うと嬉しいです」




