二百年大修行 クラーケン編(四)
「大丈夫ですか?」
「はい…出来ればもっと解りやすい言葉で…。」
「簡潔に言うと、この水による体力回復は化学反応ではなく、技だという事です。あなたの言っている森の事を教えて下さい。」
「はい…」
「なるほど、喋る森ですか…。」
「何か解りましたか?」
「確証はありませんが…。もしかすると、その森は命を持っているのではありませんか?いえ、普通の樹木が命を持っていないという意味ではなく、感情、知識などを持っているという意味で。つまり、人間にとても似ている。そして、技も使える。」
「えっ、じゃあ、」
「はい。あなたがその水を採取した沼は森が技によって湧き出させているのかと。」
「…………。本当に、神秘の森ですね…。」
「はい。それで、一つ言いたい事が…。」
クラーケンの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「言いたい事って?」
「言ったように、この水は技によるものです。あなたが習得することが可能かと。ただ、体系の問題も…」
「いえ、僕は水の体系です。大丈夫です。」
「では。まず、ヒールとの違いを。」
「あ、僕が使える奴です」
「そうでしたか。なら、ヒールの事は大丈夫ですね。今から習得する物はパワーモアと言う技です。ヒールとの違いは、パワーモアは体力回復した上で更に増幅させるという事。これを覚えればヒールなんていらない、といった感じですね。」
「おおっ」
「私に教えられるのは以上です」
「へ?」
「私に教えられるのは以上です」
「何で?」
「私がこの技を知らないからです」
「待ちたまえ!」
「所長!」
所長、らしい人が現れた。
「君、安心したまえ。私がパワーモアを知っている」
「本当ですか?教えて下さい!」
「ああ。」
「まず、君がその水を採取した森を思い浮かべたまえ」
「はい」
すぐに想像できた。
クラーケンは沼の前に立っている。
肩にはリスが乗り、つぶらな瞳でクラーケンを見つめる。
不意にリスがクラーケンから飛び降り、沼の水を飲んだ。
…………。
「わっ、おねしょ!」
クラーケンの座る椅子の下がビショビショだ。ついでに言うと、ズボンのチャック周辺も。だが、クラーケンの手も濡れていた。
「…え?」
「安心したまえ、その水は君の手から出たものだ。」
「それじゃ、パワーモアの…」
「いや、色からしてまだ体力回復の効果は薄い。まだ、鍛える必要がある。」
「そうですか…。」
「ただ、最初からこれは素晴らしい。精進したまえ」
「はい」
パワーモアの修行は楽である。
何故なら、何度やっても作り出した水を飲めば体力は回復するからだ。
しかも、どんどん成分が濃くなっている。
「タカキニオン存在値、所長と同等になりました」
職員が告げる。
その内容は、クラーケンがパワーモアをマスターしたという事だ。
「よく頑張った、クラーケン君。」
「はい。この研究所にどれくらい籠っていたか解りません」
不意にカレンダーを見る。
「修行を始めて二百年…。皆と集合しなくては…。所長、そろそろ帰らねばなりません。今までありがとうございました」
「これからも、頑張りたまえ」
「くれぐれもパワーモアの乱用はやめてください。タカキニオン物質の多量摂取はあの時のように精神異常を招きます」
くれぐれも間違ってはいけない。あれはタカキニオン物質の多量摂取のせいではなく、般若心経のせいだ。
クラーケンは決めている。
「皆に会ったら森の事を話さなければなりませんね…。」
クラーケンは二百年、沢山の事を学んだ。




