二百年大修行 クラーケン編(三)
それは突如として現れた。
地上界の森の沼の水鑑定所
「馬鹿みたいにピンポイントですね…。」
こういう時、人は何を思うか。
未就学児〜小学校中学年のみるアニメに出てくる悪役の作戦。
最終的にヒーローに殴り飛ばされてお空の向こうにキラーンという奴だ。
「もっと一般的な鑑定所を探しましょう…。」
それは突如として現れた。
地上界に限らず三世界にまたがって森の沼の水鑑定所
「同系列ですね」
森に限らず色んな沼の水鑑定所
「そろそろ諦めてください」
沼に限らず色んな水鑑定所
「…………。」
水に限らず色んな物鑑定所
「やっとマシなのがありました!」
馬鹿正直に入っていくクラーケン。
こういう時、人は何を思うか。
一般的な思考を持つならば詐欺だと理解できるであろうに台本という愚かな物のせいで詐欺に引っ掛かってしまう主人公、エキストラ。
ガラララ。
「こんにちは…」
「へいらっしゃい」
ガラララ。
居酒屋の挨拶のお陰で詐欺だと気付いたクラーケンである。
「ちゃんとした鑑定所はあるんでしょうか…?」
都会に入った。
「大都会ですね。ここならあるかもしれません」
そして、あった。
界立科学研究所一般利用部門鑑定部。
要は、界立科学研究所の中の一般人も利用できる部門の鑑定ができる所らしい。
「こんにちは…」
「何の用でしょうか」
「鑑定して欲しい水が」
「では、この用紙に必要事項を記入してください」
採取場所:地上界の森の沼。
採取日:約百五十年前。
鑑定理由:この水を飲むと、力がみなぎって来ます。その謎を解明したいからです。
クラーケンは用紙と水を受付に渡した。
すぐにペットボトルが帰ってきた。中身は五分の一位しか減ってないので、それほど要さなかったのだろう。
二時間後。
職員が深刻な顔でやって来た。
「申し訳ありません。これは一般利用部門では鑑定しかねますのでこちらにお越しください」
「は…はぁ?」
界立科学研究所特殊利用部門要高度技術専用科鑑定部。
やたら長い名前になった。
要は、界立科学研究所の特殊に利用するための部門で高度な技術を必要とする鑑定部。
一般利用部門では技術が無いらしい。
「許可書はこちらで作成致しますので、お名前の方を…」
「クラーケンです」
「では、よろしくお願いします。」
ガラララ。
どうやら、神秘の森の沼の水は森同様神秘らしい。
いや、飲んだら力が出る時点で神秘なのだが。
界立科学研究所特殊利用部門要高度技術専用科鑑定部にて。
ガラララ。
「こんにちは…」
「お名前を」
初っぱなで身分確認。やはり、一般利用部門とは違う。
「クラーケンです」
「解りました、こちらへ」
名前を聞いて一瞬の判断。オツムの出来も一流だ(一般利用部門のオツムがヘナチョコとは言っていない)。
「例の水を」
「はい」
バッグから水を取り出す。職員はそれを眺めて言い始めた。
「色からしてアンソニオン物質は含まれていませんね。予想通りです。体力回復はソニオン物質が欠かせませんからね。しかし、百五十年という歳月にしてはサンクラー物質の沈殿が多い。ソニオンはサンクラーとの結合力が高いはずですが、タカキニオン物質の存在値が9.2以下の可能性が…。となると、非生命有機物におけるAIH値が5.1より下になります。そうすれば全てが一致しますが…。いや、タカキニオンの存在値が9.2以下になればソニオンがアンソニオンにならないはずがない。人知を越えています…。」
職員がクラーケンに同意を求める。
だが、クラーケンの魂は既に101匹のワンちゃんと踊っていた。
「まぁ、鑑定するのが早いでしょう。この部屋からご退室ください。場合によっては劇物の発生もあり得ますので」
醜いアヒルの子に魂を戻されたクラーケンは部屋から出ていった。
三時間後。
クラーケンの魂は鳥のソニオン君、馬のアンソニオン君、虎のサンクラー君、蛇のタカキニオン君と鬼ごっこしていた。
だが、現実に戻された。
「…さん、クラーケンさん、起きてください!鑑定が終わりましたよ!」
「はっ、はい!」
「えー、結果からして、観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多呪即説呪日羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶般若心経…………。」
なお、全てクラーケンの空耳であって、実際はもっと科学的な事を言っている。
「クラーケンさん?起きてますか?」
「うふふふふー、タカキニオン君、僕はこっちだよー。」
「たっ、大変です所長!依頼者がタカキニオン物質を多量吸入して精神異常を起こしました!」
無論、クラーケンが壊れたのはタカキニオン物質のせいではなく、般若心経のせいである。




