お金稼ぎ(一)
「我々は働かなくてはいけない」
「アテは?」
「無い。」
「どうするんですか?一般会社に就職ですか?」
「無理だと思うぞ」
「やらなきゃ駄目ですよ。飢え死にするよりはマシですよ」
一週間後。
「就職先が全員決まった。これで家計も安定するだろう」
「では」
各自会社に向かった。
だが。
「佑樹、これ印刷しといて」
「はい」
「佑樹、電話だよ」
「只今」
クラーケンの受話器に転送される。
「もしもし」
『クラーケンか!?』
「バジリスクさん?」
『やばい、ウチの会社の前にモンスターだ、早く来てくれ!』
「え…!」
ガチャ。
「部長、急ぎの用事が出来ましたんで行ってきます」
「あ、おい!」
バジリスクの勤める会社にて。
「ねぇ、剛士郎くん、会社のロビーが岩と水で埋め尽くされてるんだけど。三階も一部機械が凍ってるよ」
「すいません」
「もうクビだから」
「…………。」
クラーケンの勤める会社にて。
「どこ行ってたの」
「モンスター退治に」
「これからもそういうの続く?」
「…はい」
「…クビ」
「…………。」
クラーケンが家に帰ると、三人もいた。
「皆さんもですか」
「見事にクビだな」
「他には策はあるか?」
「俺達が一般会社に勤めるには力が邪魔だった。だから、力を有効活用できる場所を選ばなくてはいけない」
「クラーケンは消防だろうな」
「ペガサスさんは科学関係?毒を研究して」
「サンガーは発電所確定だな」
「バジリスクは空手教室でも開いたらどうだ?」
トントン。
「どうぞー。」
「あの…列島テレビの藤巻です」
「インタビューでしょうか」
「いえ、そんなものではなく、皆さんのドキュメンタリー番組を作るために交渉に来ました」
「ドキュメンタリー番組だァ?」
「はい、皆さんが普段から何をしているのか、敵と戦う様子などを週一で組む予定です。勿論、スタジオ収録もあるのでギャランティーも弾みますし…」
「詳しく聞かせてもらおう」
「食い付きましたね、ペガサスさん」
「だまらっしゃい、クラーケン君。これは大チャンスだぞ」
「では、詳しい説明を…。予定としては水曜日夜九時から『リアルヒーローズ』という番組でやる予定です。内容は、普段、戦い、スタジオの三段構成で、ギャランティーとしては…」
「やりましょう」
「やるしかないな」
「状況打開だ」
「フェニックスには後で言えばいい」
「やってくれますか?やった、首の皮一枚繋がった!」
「藤巻さん、アンタそんな崖っぷちだったの?」
「はい…僕が企画した番組は視聴率が悪く、次に変な番組作ったらクビって言われたんですよ…。ホント、皆さんのお陰で助かりました…。」
「悲惨だな…。」
「では、僕は上に報告しなくてはなりませんので失礼します。」
ガチャ。
「金が入るぞ…!」
「入金零からの脱出だ…!」
「俺達も、あの人も救われたぞぉー!」
夜六時。
テニスから帰ってきたフェニックスは目の前の出来事に目を丸く、いや、点になったかもしれない、それとも、白眼を向いた可能性もあるが…とにかく、驚いた。
「お帰り、フェニックス!」
「これは…一体?」
「ああ、これの事か…これはな…。」
「テレビカメラ」
「見りゃ解るわっ!俺は何でそんなものがあるか聞いてんだよ!何でディレクター一式揃ってんだよ!」
ディレクター一式がフェニックスに頭を下げる。
「テレビ番組だよ、テレビ番組。」
「それも解るわいっ!テレビカメラとディレクター一式が揃ってテレビ番組以外の何を思い浮かべるんだ!」
「水曜夜九時に僕らの番組が始まるんです。名前は『リアルヒーローズ』ですよ」
「ゴールデンタイムじゃねえかっ!そんな番組朝八時のヒーロータイムにやれ!」
「局が違うよ」
「知るかー!!」
「まあまあ、フェニックスさん落ち着いて。あ、僕は担当の藤巻です。」
「藤巻さんお帰りください」
フェニックスが目の焦点を合わせずに言った。
「フェニックス、お客様だぞ」
「割にはテメエらソファーにふんぞり返ってんじゃねえか!」
「日常を映してんだよ、日常を。テレビだって見てるし」
「嘘つけ!いつも島国放送のニュース見てるくせに今日に限って列島テレビのバラエティー観てんじゃねえか!」
「いや、たまにはギャランティー観ても良いじゃねぇか」
「ほー、ギャランティー貰ってますか」
「はっ…!」
「賄賂じゃねぇか!」
「人聞き悪いですよ、出演料じゃないですか」
「偽造した日常映されて何が出演料じゃ!家ん中映されて金なんか貰わねぇよ!局破綻するわ!」
「スタジオ撮影もあるらしいぞ」
「行って何すんじゃ!モンスターの解説でもするのか!?」
「技の紹介」
「一時間で終わるよ!何が週一…」
「水草雷土奥義!」
シュゥゥゥゥゥ…。
「いんやー、気にせず撮ってください。これも日常ですので」
「…………。」
ディレクター一式、唖然。
夜十時。
テレビ局の人達が帰っていった。落ち着いた所でフェニックスが話し出す。
「何でいきなりテレビ出演しようなんて思ったんだよ」
四人が顔を見合わせる。
「もう…言いましょうか…?」
「言った方がいいな…。」
「あのな、フェニックス。ウチは財政がヤバイんだ。しかも、モンスター退治のせいで一般会社に就職は出来ない。そこにこの話が飛んで入ってきた。俺様達はすがったんだ」
「そうだったんだ…。」
「精神年齢は高いとは言え、まだ十三歳のフェニックスにはそんな話はしたくなかったが…言うしかなくなったからな…。」
「…………。」
「仕方無いんだ、許してくれ…。」
「もういいよ。ま、テレビ番組っつーのも悪かないかもな!」




