義務教育(一)
「えー、今日からこの学校に来た猛君だ。皆も知ってる通り、火鳥フェニックスとして平和を守っている。じゃ、挨拶どうぞ」
「…火鳥フェニ…いや、猛です。趣味はモンスター…いや、飛ぶ…いや、特にありません。よろしくお願いします」
「はい、どうも。お前ら、質問は?」
「はい!」
「猛君、自分で選びなさい」
「じゃ…君」
「技を見せてください!」
「いや、こんなオンボロ木造校舎でやったら全焼するんで」
「今までどんな敵を倒しましたか?」
「茸のモンスターとか…水使いとか」
「モンスターの名前は?」
「聞かない主義なんで」
「…………。」
一時限目、英語。
「Hello everyone! Oh,new friend?」
「アー、マイネーミズタケル。」
「Takeru,do you like English?」
「アー、イングリッシュ…。アイドンライクイット」
「Hmm,what subject do you like?」
「サブ…サブレ?」
「No,no,subject.」
「サブジェクト…ワッツイット?」
「Don't you know subject? Subject is…」
教師が説明に困っている。すると、隣の女子が、
「猛くん、サブジェクトは科目だよ」
「そ、そうなのか?アイドンライクオールサブジェクト」
「All?」
「オール。」
「…………。」
教師が、絶句した。
休み時間にて。
「さっきはありがとな。」
「いやいや、猛くん勉強嫌い?」
「嫌いも何も、約一ヶ月勉強と言うものに触れてないし」
「え゛」
「マジ。いきなり力を貰って、モンスター倒したり、死んだり。」
「死んだ!!?」
女子が声を張り上げる。周りが一斉にこっちを向き、肩をすくめた。
「うん、知る限りでは二回死んだね」
「…………。」
「名前は?」
「名前は、李伊奈」
「リーナ?」
「うん。『すもも』に伊賀の『い』に奈良の『な』だよ」
「リーナ…。」
そう言えば、似てる。顔も、声も。
「李伊奈、あだ名は?」
「すもも」
「リーナじゃないの?」
「私のあだ名、小学校の時に決まったんだけど、その時に候補には挙がったよ。」
「なあ、俺はリーナって呼んで良いか?」
「何で?」
「友達にいたんだ。リーナって娘が」
「ふーん、外国人だよね?」
「かなり遠くのね」
「会ってみたいなー」
「…もう死んでる」
「え!?あっ、ごめん、言っちゃいけない事を…!」
「いや、良いんだ。」
「…………。」
二時限目、数学。
「始めるぞー。」
「あれ、担任の先生だ…。」
「古賀先生は数学マニアだよ。一度大学に研究職にならないかって勧誘された」
「すげ」
「はいそこ喋るなよ。今日は授業進むの早いぞ」
「早いって?」
「古賀先生の『早い』は教科書を丸々一単元終わらせるのよ、一時限で」
「はい、接弦定理。PTの二乗=PA×PB。理由は書いてある通り。はい次ー」
「はい!?」
「どうした、猛君」
「いや、接弦定理の説明それだけすか?」
「違う違う、接弦定理は後二つパターンがあってな…」
「そう言う意味じゃありません」
「どういう意味だよ」
「諦めて、猛くん」
「…………。」
「次は、PA×PB=PC×PD…」
三時限目、社会。
「はいじゃ、予告通り小テやりまーす」
「え゛」
「あれ、君転入生?じゃあ、聞いてないなぁ…。ま、やってみな。徳川将軍十五代」
「ごめん、猛くん、言っとけば良かった…!」
「…………。」
三分後。
「じゃあ、抜き打ち状態でテストを受けた君、全員言ってみようか!」
「…………。」
フェニックスが立ってプリントを持つ。
「家康」
「ふむ」
「家治」
「ふむ」
「家光」
「ふむ」
「家忠」
「ふむ」
「綱吉」
「ふむ」
……………………。
「はい、四問正解ー。家康と家光と綱吉と慶喜だね」
「凄いじゃん、猛くん!」
「満点風情が何を言う…。」
「私も抜き打ちだったらそれぐらいしか取れないよー。(吉宗が解らなかったのは心外だけど)私だったら四問も取れない取れない。」
「今、ボソッと邪念を…。」
「そ、そんな、『吉宗が解らなかったのは心外だけど』だなんて思ってないよ!」
「自白ありがとう」
「はっ…。」
四時限目、国語。
「今日は論語やりまーす。はい、新入生君読んで」
「子曰、『君子和而不同、小人同而不和。』」
「あっ、書き下し文読んでくれる?」
「カキクダシブン?」
「右に書いてある奴」
リーナが丁寧に教えてくれる。
「ああ、子曰はく、『君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず。』と。」
「はい、ありがとう」
読み終わると、フェニックスはリーナに聞いた。
「なあ、この『而』って書き下し文の方に書かれてないよな?」
「それは読まないんだよ。」
「ふーん…。」
給食。
「先生、猛くんは当番はどうなるんですか?」
「ん…。再来週位からかな…。李伊奈、お前今週だったろ?教えてやれよ」
「猛くん、ちょっと来て」
「ん?ああ…。」
「こっから運ぶの。それで、つぐんだけど、つぎかたは解る?」
「え、お玉に入れて皿に入れるんじゃないの?」
フェニックスが皿を持ってお玉でスープをつぐ振りをする。
「まあ、大体あってるんだけど、スープは皿じゃなくてこのお椀に入れてね」
「あ…。」
「頂きまーす」
ガツガツ。
「猛くん、好き嫌いとか無いの?」
「ん、あ、無ぇよ。」
「偉いね」
「まあ、三年前ピーマン残したら姉貴に半殺しにされてそれがトラウマでね」
「…………。」
「リーナは何か嫌いなもんあるのか?」
「ブロッコリー」
「子供だねぇ」
「なっ…!」
「ツッパってるヤンキーの頭と思って食えば克服できるぜ」
「出来ません」
「そうかぁ?」




