クラーケンの恋人
短編。クラーケンに彼女ができる
家にて。
「今から、五覇者会議を行う」
「いきなりなんだよ、ペガサス?」
「議題は、『何も起こらない』だ」
「どういう意味だ?」
「初めてのお使い以来、この一週間モンスターが現れたことはない」
「平和でいいんじゃないんですか」
「あの日はあれだけ騒ぎ立てたマスコミも、それ以来動きがない」
「時事問題なんてそんなもんだろ」
「ファンレターの一通も来ない」
「しゃあねえだろ。イケメンっつったらクラーケンぐらいだし」
「やめてくださいよ、イケメンなんかじゃありませんよ」
「でも、求婚ぐらいはされたことあるだろ?」
「ま、まあ…。」
トントン。
「え、客?」
「どうぞー」
バタン!熟年女性が入ってくる。
「佑樹、佑樹なのね!?」
「は、母上!」
「えぇ!?クラーケンのかーちゃん?」
パチン!
「あんたって子は!」
「い、いや、クラーケン母さん、会って早々ビンタは…。」
「あんたの『あの事件』のせいで、結婚話が全部無くなったじゃない!一人息子なのに、一族が絶えてしまうわ!勘当されたくなかったら、明後日までに結婚相手連れてきなさい!」
「そんな、無茶ですよ母上!」
ズカズカズカ、バタン!
「…………。」
「聞かせてくれ、『あの事件』の事を。そうしたら俺達にも協力できることが見つかるかもしれない。」
「解りました…。」
「佑樹、結婚相手は決めたの!?」
「まだです、母上…。」
現在クラーケンこと佑樹は、十五人の女性から結婚相手を選んでいた。何故こんな事をせねばならなくなったかと言うと、佑樹が今まで彼女を作ったことがないからだ。イケメンだから、佑樹は告白された事が無いわけではない。と言うより、人より多いだろう。それなのに何故かと言うと、佑樹が臆病で告白されてもイエスと言えないのだ。そして、遂に成人し、一族の絶えを恐れた母が部屋に閉じ込めて妻を選ばせているのだ。
「そして、極度の精神不安定に陥り、発狂し、名簿をビリビリに破いて暖炉で燃やした、と言うわけですね…。」
「悲しい事件だな…。」
「皆さん、名案はありますでしょうか?」
「今の話には関係ないが、一つ思い付いたぞ。」
「本当ですか、フェニックス君!?」
「俺達四人の誰かが女装する」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「僕は…構いませんけど」
「構わんのか、クラーケン!?」
「ええ、どうせその場しのぎですし」
「そ、そうか…。なら、誰がやる?」
フェニックスが質問に答える。
「そりゃあ、ジャンケンだろ。いくぜ、じゃーん、けーん、ぽんっ!」
「…………。」
「…………。」
「言い出しっぺが負けるとは、この事だな…。」
「じゃあ、フェニックス君、よろしくお願いします…。」
「いやああああああああああああ」「決まったことに男がウダウダ言うな!」
「お願いしますよ、フェニックス君!」
「助けてリーナァァァァァァァァ!」
「ウチ、金ならありますよ!?」
「花柄のワンピースかしら、水玉かしら?ね、どう思う、クラーケンさん?」
「ど…どちらも似合ってますよ…。」
「カツラは金かなあ、この際、黒髪でもいいか」
「ハッハッハ、金が入ると俄然やる気だなー」
「フェニックス、俺達四人で買い出し行ってくるからそのまま女装続けろよー」
「はーい」
「帰ったぞフェニックスーって、あいつ、女の子代役とったな。あのシルエットは奴じゃない」
四人が帰ると、ソファに知らない女の子が座っていた。
「君、フェニックスの代役かい?」
女の子がこちらを向く。それは眩しいほどの美しさで、ペガサス、サンガー、バジリスクのハートを撃ち抜いた。
「やあ、君名前は?」
「可愛いね、フェニックスとは友達かい?」
「クラーケンに君はもったいない、俺と結婚しよう…。」
(あれ…フェニックス君ですよね?)
ただ一人、クラーケンだけが理性を保っていた。
「名前は…………フェニックスじゃ、テラフレア!!」
「はぁうっ!」
フェニックスが黒焦げの三人を蹴りまくる。
「なぁ〜に、同僚に萌えてんだよ!あん?」
ガスッ、ガスッ。
「痛っ、やめっ、だってホントに可愛いんだよ…。」
「男に向かって可愛いたあ、いい度胸じゃねーか!」
ガスッ、ガスッ。
「フェニックス君、それぐらいでやめときましょう…。それより、その女装はあなたと同年代の女の子ですよね…?」
「そうだけど?」
「それだと、約十歳差で僕がロリコンになるのですが…。」
「あ」
すると、燃えている(萌えている)ペガサスが口をはさんだ。
「別に、それでもいいんじゃないの」
「…………。」
「…………。」
「僕も手伝いますよ、フェニックス君…。」
「火は消すなよ」
「大丈夫です、心臓にアイスレーザーを当てて、寒暖の急激な差による心配停止を…」
「ぬおおおおおおテメエの失言のせいだ、ペガサス!」
「いやああああああああああああ」
と言うわけで。と、言いたいところだが、今クラーケンとフェニックスは手を繋いで歩いている。いや、クラーケンと「紅子さん」と言うべきだろうか。そう、フェニックスの女姿、「紅子さん」。
「フェニ…いえ、紅子さん。あれが僕の家ですよ…。」
「すげ…いえ、素晴らしい豪邸ですね、クラーケンさん…。」
そして、その二人の後ろを三人が笑いをこらえて歩く。
「佑樹。待ってたわよ。その子が結婚相手ね。名前は?」
「フェニ…子です」
「フェニ子さん?」
「いえ、紅子です」
「そう、よろしくね。お茶でもいれましょうか」
「そう言えば、付き添いの三人は佑樹と同居している人よね?」
「は、はい母上。」
「一人足りないんじゃなくて?ほら、あの小さい子」
ギクゥ!
「は、母上、フェニックス君は高熱のため家で休んでおります」
「そう」
第一関門は乗りきった。次は、
「佑樹」
「何でしょうか、母上?」
「本当にその子は結婚相手なの?」
「いい…今更何をおっしゃるんですか…紅子さんは僕の結婚相手ですよ…?」
「それにしては若すぎる気がするけど」
「は…あはは…。」
次は紅子さんに眼が向いた。
「紅子さん」
「はっ、はいぃ!」
「本当に佑樹と結婚してよろしいの?」
「も、もちろんですよ…。」
「まだ若いようだけど」
「そ、そうですが、私は結婚できる年齢、十八歳になったら佑樹さんと結婚します」
「女性は十六歳よ」
「では十六歳に…。」
危なかった、と紅子さんは心から思った。
「紅子さん。あなた、年齢に関して男性の知識を持っていたようだけど、あなたもしかして…。」
「そ、そんなわけないじゃないですかぁ」
「私はまだ何も言ってないわよ」
「すみません」
「あなたもしかして、男兄弟が多いんじゃなくて?」
「え、そんなこと?」
予想外の質問に紅子さんは戸惑う。
「そんなことだけど?」
「私は男兄弟が多かった…?です」
「そう」
「母上、そろそろおいとましますよ…。お茶も飲みましたし」
「あら、もう帰るの」
すると、バジリスクが
「不味いぞクラーケン!敵が来てるッ!」
「何ですって?母上、紅子さん、ここで待っていてください!」
「解ったわ」
「解りました」
四人は外に出ていった。
「爺たち。この部屋を私と紅子さんだけにしなさい」
「かしこまりました」
「ど…どうかされましたか?」
外で敵と対峙している四人を見ていた紅子さんは、クラーケンの母の行動に疑問を抱いた。
「あなたも行かなきゃいけないのではなくて、フェニックスさん」
「…ばれてましたか」
そう言うと、紅子さんは女装を解き、フェニックスに戻った。
「あなた達が来たときから解ってましたよ。それに息子は嘘が苦手でね」
「おばさん。クラーケンは結婚なんかするようなガラじゃない。勘当は許してやってくんねーか…。」
「いい友達を持ったわね、佑樹も…。いいわ、勘当は許してあげましょう。ただ、一つ条件があります」
「何ですか?」
「先程出した爺は佑樹が生まれた時から佑樹を可愛がっていたわ。私以上と言っていいほど。だから、あの子が結婚して一番喜ぶのは爺。彼の前では、紅子さんのままでいてあげて」
「…解りました。では、行ってくるぜ、おばさん!」
フェニックスは火炎の翼を出すと、クラーケン達のところまで急いだ。
クラーケン達はモンスターと対峙していた。
「今日は大勢だな」
ペガサスが話を切り出す。
「ああ。一週間話し合った結果、十人で一斉に攻撃することにした。」
「ぷっ、一週間考えた結果が十人で一斉攻撃かよ!」
「なっ!」
「行くぜ!水草雷土奥義!」
『主は火の覇者』
「え゛」
「フェニックス君!どうしてここに!?」
クラーケンの問いにニヤリと笑うと、
「おばさんだけにばらした。許してくれたぜ」
と、言った。
「まあ、いい、行くぜ、出でよ火鳥!」
火鳥がモンスター達に炎を吐くが、モンスターはギリギリで耐えた。
「な、総力奥義を耐えたァ?どうやって倒すんだよ!?」
すると、
「火の精霊よ集まれ、そして我が力となれ!テラフレア!」
「高熱を出しているのにありがとう、フェニックスさん」
「いえ、どうも。それでは私はこの辺で」
フェニックスは帰るふりをして、爺が見えないところで女装をした。
「あ、紅子さん」
「クラーケンさん、大変格好良かったですよ」
「それはどうも」
「うぅ、遂に佑樹様も彼女が…。爺感激でございます…。」
「本当ね、爺」
号泣する爺と、それを見守る六人の男女がいた。
クラーケンの恋人、終了。




