空舞う炎(二)
本を開いた、と言ったものの、どちらの本を開いたかは解らないだろう。
ここは、意見が割れると思う。
フェニックスはラストオブヒーローズが好きなんだからラストオブヒーローズを開いたに決まっている!
ばか野郎!ついさっきまで今宵十五夜也の話をしていたんだから今宵十五夜也を開いたに決まってんだろ!
さて、答えだが…え?なになに、良く聞こえない…第三勢力!?
第三勢力がいるって?
フッ、君達は考えが浅いねぇ。両方開いたに決まっているではないか!
なるほど、これが第三勢力か。
作者ともあろう者がその存在に気づけなかった。
こんなんじゃ、作者界で嬲木先生に会わせる顔がないッ!
…気を取り直して、答え発表。
答えは、両方開いた、である。
チクショー!!
何という事だ…。
フッフッフ…。
えー、第三勢力さん、おめでとう。
とにかく、両方開いた。
二つ繋がっているのに、どうやって?
Tの形にしたのだ。
右はラストオブヒーローズの表紙と数十ページ。
左は今宵十五夜也の裏表紙と数十ページ。
下はラストオブヒーローズの裏表紙と数十ページ、今宵十五夜也の表紙と数十ページ。
こうして、交互に見ている。
「ハハッ、懐かしいなぁ〜」
と言ったと思えば、
「フムフム、それから…?」
と真面目顔になったりする。
それを、ジームが、
(ヤル気あんのかよ、このクソガキ…。)
と見ていた。
だが、ジームも知らなかった。
フェニックスが今している事こそ、彼がすべき事だということを。
突如、二冊の本が光り出したかと思うと、
それはフェニックスの手から離れ、宙に浮いた。
「な、何だ…?」
「解りません…。」
それは、どんどん上がっていき、遂に天井にぶつかった。
「動きが…止まった…?」
「でも、光ったままですね…。」
「何が…起きているんだ…!」
その時だった。
フェニックスが消えた。
「…フェニックス殿?フェニックス殿ー!」
大声で叫んでも、光を失った二冊の本が落ちてきただけだった。
その時だった。
ジームが消えた。
「…ジーム?ジーーム!」
大声で叫んでも、光を失った二冊の本が落ちてきただけだった。
「ジーム?」
フェニックスが周りを見渡す。
窓の外を見る。
「戻って…いる?」
人は後ろ向きに歩き、車は後退する。
建設中のビルはどんどん解体され、汚い古いビルは綺麗に新しくなっていった。
そして、家の中では、時計が反時計回りしている。
いや、時計の回る方向が時計回りなのだから、時計回りなのか?
取り敢えず、常識的に考えると逆の出来事が起きている。
なのに、フェニックスは普通に動ける。
フェニックスだけ時間の逆流れに乗れていないようだった。
時計の回るスピードはどんどん早くなる。
そして、時針が見えなくなった。
「どんなスピードで回ってんだよ…。」
すると、他にも動きがあった。
「床が…低くなっている…?」
んなわけあるか。
「んなわけねぇよな…。何が起きているんだ…?あっ!」
気付いた。
「埃が…どんどん減っていっている…」
そう、床が低くなったと感じた理由は、埃がどんどん消えていっていたからだ。
フェニックスは、時計でも信じられなかったこの奇妙な事態を受け入れた。
「信じたくないが…時間が戻っているんだ…!」
埃が全て消えた。
そこまで来るのに約一時間半。
自由に動けるとはいえ、フェニックスは部屋から出なかった。
「そろそろ、ここに人が戻ってくるのか?」
窓から見てそれを確かめるためだ。
過去に戻ったならば、フェニックスの母が戻ってくるはずだ。
だが、誰も入ってこない。
「スピードが早すぎて見逃したか?」
時針が見えないのだ、それも有り得る。
だが、その仮説は見事に砕かれた。
「秒針が…見える…。」
既に、カチッ、カチッ、とそれは動いていた。
時計回りに。
時間の逆戻りが止まったのだ。
「これじゃ…見逃すはずはねぇ…。」
フェニックスは次の朝になるまで誰かの帰りを待ったが、誰も来なかった。
その朝。
フェニックスはヘトヘトになって一階に下りた。
徹夜で窓の外を見続けたのだ、無理はない。
すると、何かが変わっていた。
「何か違うな…。」
テーブルに置いてある物が違った。
茶碗らしき物が置いてある。
「茶碗!?だ、誰か来たのか?誰か何か食べたのか?」
フェニックスがテーブルに駆け寄る。
「違うな」
その言葉を発したのはフェニックスでは無かった。
「違うな」