空舞う炎(一)
窓から外を見る。
フェニックスが摩天楼、という言葉を知っていればその集まりだと言っていただろう。
だが、
「ブロックで作ったビル街みたいだなぁ…。」
どこのおもちゃの王子様だろうか。
だが、本人曰く、ブロックで作ったように、敷き詰められ、単調だと言いたいらしい。
極限比喩のせいで補助がなければ全く理解できないが、まさにその通りだ。
ビルの間は歩道一本だけ。車道は少し離れたところにある。
そして、全て直方体だ。
「俺の故郷、って感じしねーよなぁ…。」
こんなに落ち込んでいるのも仕方がない。
天上界王に、仲間と当分は一緒にいられる、と約束されたのに、今一緒にいるのは愛想の沸かないジームだ。
「着きましたよ」
そのジームが、話しかけてきた。
「着いたのは知ってるさ。こんなに地面が近いんだから。それより、俺達はどこに着地したんだ」
ジームは行き先をフェニックスに黙っていた。
「あなたが最も知っている場所です」
飛行機を降り、連れてこられたのは一軒の家だった。
「ここは…」
「お解りのはずです」
「ここは…俺の家だ…った」
そう、連れてこられたのはフェニックスが住んでいた場所。猛として。
「何でこの家がまだ残っているんだ…?」
「ここがあなたの始まりだからです。天上界の人間だった父と地上界の人間だった母があなたを産んで、来た家。だから、水神様の森のようにここには力が残り、人を寄せ付けなかった。」
「…良く知ってるな、ジーム」
「情報収集が私の力です」
「へぇ、そーなの。で、俺はここに来て何をしろと」
「あなたがすべきと思うことを」
中に入った。
さすがに力も埃は防げなかったらしく、家の中は凄いことになっていた。
「二百年も放っておくとこんなに埃が積もるのか…。」
人類未知の体験だろう。
彼は今二百年分の埃の上を歩いている。
一階をまず見る。
家には家財が全て残っていた。
「っかしーな、お袋が出ていったのに何で物が残ってんだ?」
「あなたの父が出ていった瞬間に家に残った力が解放されたせいで、母は耐えきれずすぐに出ていかなくてはならなかったのでしょう」
「…………。」
テーブルには、最後に父が読んだ新聞と、最後に母が使った台拭きが置いてあった。
「マジであの後のまんまかよ…。」
父が、タマと共に自分を殺そうとしたあの日。父はどう言ってこの家を出ていったのだろうか。
すると、フェニックスは一つ疑問を持った。
「親父はこの家に力が残ったことを知っていたのか?」
「いえ、あなたの父も知りませんでした。二界の混ざり子がそれほど強力な力を持つとは誰も解りませんでしたから」
「…?」
「ああ、知らなかったのですね。天上界、地上界の混ざり子は、天上界で生まれた子より更に強力な力を持つのですよ。それはAIH値5程度に」
AIH値5、それがどれほど凄い事か、今までをしっかり読んでいる人ならお解りだろう。
「でも、俺はAIH値18ってツルギ…ジンギに言われたぞ。それから強くなったとしても5は…」
「朱に交われば赤くなる、あなたも彼ら四人といたせいで…」
ジームの胸ぐらをフェニックスが掴んだ。
「俺の仲間の事を悪く言うな」
その眼は完璧に怒っている。
だが、ジームは冷静に言った。
「あなたの疑問に答えているだけなのですが」
「チッ」
フェニックスが放す。
「続けろ」
「あなたが気分を害す部分は省略しておきます。まだあなたが一人だった零〜十三歳は、自由にこの家に力を与えていた、という訳です」
話し終わると、フェニックスとジームは二階に上がった。
そして、「猛の部屋」に入った。
「ホントに何も変わってないんだな…。」
やはり、自分の部屋を見ると他を見るより納得しやすいらしい。
部屋にあるもの一つ一つをゆっくり見ていった。
本棚を見る。
百何十冊という本があった。
「いやー、沢山本があるなー」
「何割漫画でしょうかね」
「じゃかぁしい」
フェニックスファンに教えてあげよう、九割である。
「あ、これ、姉貴とハマったヤツじゃん」
無論、その背表紙には「ラストオブヒーローズ 右大軍ロビン」と書いてある。
「懐かしいなぁ〜」
フェニックスが唯一真面目に読んだ小説である。
内容は、
宇宙人に侵略されつつある地球、そこに最後に残った英雄達
の話だ。
フェニックスが手に取ろうとする。
だが、上手く取れなかった。
「あれ、どーしたんだろ?」
良く見ると、隣の本と湿気か何かのせいでベッタリくっつき、その本も一緒に取らないと取れない仕組みになっていたのだ。
「チッ、まぁ、二百年も原型を保てたんだから許してやるか」
二冊一緒に取る。
本を引き剥がそうとしたが、剥がれなかった。
「運命のこっちの本は何なんだ?」
運命があったとしてもそれは湿気の運命だろう。
だが、奇跡とは起きるらしい。
「ん…『今宵十五夜也 嬲木雨曇』か」
何という運命のいたずら。
右大軍ロビンと嬲木雨曇は、作者がこの前紹介した作者界の人ではないか。
「この本新品だな〜。時代小説だからきっと俺読まなかったんだな」
ウンウンと一人合点する。
今頃、嬲木雨曇が作者界で泣いているだろう。
すると、フェニックスが思い出したように言った。
「そういや、俺はここで何をするんだっけ」
…認知症だろうか。
「あなたがすべき事をして下さい」
「ふぅん…。」
フェニックスは本を開いた。




