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「配信など破廉恥な!」と言っていた古風な最強呪術師様、現代っ子の俺にバズ術を教え込まれて登録者100万人を突破してしまう  作者: すかいはい
第1部:【新星爆誕編】

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第4話:【同居】

「……ここが、其の方の……拠点か?」


 東京郊外、築二十年のワンルームアパート。


 コンビニおにぎりで腹を満たした眞白さんは、俺の部屋の一歩手前で、まるで未知の結界でも調べるかのようなけわしい顔をして立ち止まっていた。


「拠点というか、ただの安アパートです。……ほら、入ってください。外で突っ立ってると不審者だと思われますから」

「ふ、不審……? 礼を失した物言いだな。……して、失礼するぞ」


 眞白さんが、長いすそさばきながら六畳の部屋に足を踏み入れる。


 途端に、俺は激しい後悔に襲われた。


 脱ぎっぱなしの服。机の上に山積みになった呪術回路の試作パーツ。昨日食べたカップ焼きそばの空き容器。


 それら全てが、絶世の平安美女という『異物』が存在するだけで、犯行現場のようにみじめに見えてくる。


「……汚ねえな、俺の部屋」

「む、なんだ此の香ばしい……しかし、鼻を突く毒気は」

「それは『男の一人暮らし』っていう名の毒です。……今片付けますから、そこに座っててください!」


 俺は亜光速でゴミを袋に詰め、洗濯物をクローゼットへと押し込み、適度に消臭スプレーを撒き散らした。


 一息ついて振り返ると、眞白さんは部屋の真ん中にちょこんと正座していた。


 銀髪が月光に透け、狭い六畳間がまるで高級料亭か何かに見える。そのミスマッチな光景に、俺の心臓が不自然な音を立て始めた。


(……やばい。そういえば、女の子を部屋に入れるのなんて初めてだ)


 しかも相手は、数百年ぶりに目覚めた最強の美少女呪術師。


 気まずい沈黙を破るように、俺は無理やり声をしぼり出した。


「えっと……眞白さん。その装束みたいな格好じゃあ寝にくいですよね。とりあえず、俺の服でよければ貸しますけど」

「……着替え、か。うむ、確かに此の装束は祠のすすで汚れておる。だが、其の方の法具は、私には少々大きすぎはせぬか?」

「このサイズしかないので、そこは我慢してもらえれば……。あと、寝る前にお風呂、入りますか?」

「おふろ……? 沐浴もくよくか。それは良いが、此処には滝も小川も見当たらぬぞ」


 ――そこからは、まさに『文明の利器』との格闘だった。


 自動で湯が沸く給湯器に「板が喋ったぞ!?」と驚き、シャワーから出る温水に「天界の奇跡か!」と感動する眞白さん。


 浴室から漏れるバシャバシャという音を聞きながら、俺は部屋の隅で、自分のスマホの『フォロワー増加通知』を眺めて現実逃避するしかなかった。


「……颯太郎。……着替え終わったぞ」


 控えめに開いたドアから、彼女が現れた。


 俺は、持っていたスマホを床に落としそうになった。


「…………っ」


 貸したのは、俺が普段着ているオーバーサイズの黒いTシャツだ。


 彼女が着ると、裾が太もものあたりまで届くワンピース状態。細い肩から鎖骨が覗き、風呂上がりで少し上気した白い肌が、視界の端々で主張してくる。


「どうした。……やはり、変か? 布が余って、酷く落ち着かぬ」


 眞白さんが、所在なげにTシャツの裾をギュッと握る。


 濡れた銀髪が肩にかかり、石鹸の香りが狭い部屋に充満した。


「い、いや。……似合ってます。……すごく」

「そうか。……なら良い」


 眞白さんは少し照れ臭そうに笑い、布団の端っこに腰を下ろした。


 さっきまでの『最強の呪術師』の面影はない。そこにいるのは、ただの、少し心細そうな一人の少女だった。


「……颯太郎。……其の方には感謝しておる」


 彼女が、ポツリとつぶやく。


「目覚めた時、私は独りだと思った。後の世に、私を必要とする者などおらぬと。……其の方が私を見つけ、飯を食わせ、此のような寝所まで与えてくれた。其の方は、まことに……不思議な男よな」

「……俺の方こそ、貴女のおかげで人生が変わりそうなんです。……だから、お互い様ですよ」


 俺は、部屋の照明を少し落とした。


 暗がりの中、隣り合う二人の影。


「……眞白さん。明日は初仕事です。世界中が、貴女のことを見守ってますから」

「うむ。……其の方が導くなら、私はどこへでも行こう。……おやすみ、私のぷろでゅーさあ」


 そう言って、眞白さんは唯一の寝床である俺の布団をあっさり占領して、秒速で寝息を立て始めた。 


 俺はと言えば、結局冷たいフローリングの上に座り込み、高鳴る胸を抑えながら、夜が明けるまで自作のハッキングアプリの最終チェックをして過ごす羽目になった。


 平安の最強ヒロインとの同居生活。


 どうやらダンジョン攻略よりも先に俺の心臓が悲鳴を上げそうだった。


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