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「配信など破廉恥な!」と言っていた古風な最強呪術師様、現代っ子の俺にバズ術を教え込まれて登録者100万人を突破してしまう  作者: すかいはい
第1部:【新星爆誕編】

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第1話:【邂逅】「破廉恥な!」から始まる最高難易度ダンジョン

「――同接、ついに10人か。……終わってるな」


 東京郊外、突如として出現した霊的災害地帯『奈落の祠』。


 湿った冷気が肌を刺す地下最深部で、俺、一条颯太郎いちじょうそうたろうは、自嘲気味にため息をついた。


 目の前で浮遊するのは、俺が自作した式神型カメラドローン『まなこ一号』だ。


 高性能レンズと呪力センサーを搭載したこの相棒が映し出す映像は、リアルタイムで配信サイト『D-Live』に流れている。


『【未踏区域】底辺呪術師が「奈落の祠」の最深部に行ってみた【命懸け】』


 そんな命知らずなタイトルを掲げたというのに、画面右上の数字は微動だにしない。


 コメント欄も数分前から止まったままだ。


「呪術名家の一条家を追い出されて半年。一発逆転のバズりを狙ってここまで来たけど……死に場所を間違えただけかもしれないな」


 俺には、伝統的な『呪力を込めてぶっ放す』才能がない。


 あるのは、呪術のプロセスを分解し、スマホやガジェットに最適化ハックする技術だけだ。


 一条家の連中からはこの技術は異端呼ばわりされ、今では実質的に勘当状態だった。


 なんとか起死回生を目論んではみたものの現実は甘くなかったというわけだ。


 このままみすぼらしく行き倒れることになるのだろう。


 そう思った時、不意にセンサーが真っ赤なアラートを発した。


「……なんだ、これ。呪力濃度、測定不能?」


 ドローンのサーチライトが、突き当たりの壁を照らし出す。


 そこには、無数の古びた注連縄しめなわと、幾千ものお札で厳重に封印された石の扉があった。


『おい、マジで未踏区域じゃねーか』

『これ開けたらマズい奴だろ。ボス部屋か?』

『底辺が調子乗るな。死ぬぞ』


 止まっていたコメント欄が、にわかに動き出す。


 恐怖よりも、心臓を叩くのは「これだ」という直感だった。


「ここで引いたら、一生底辺のままだ。術式、解体――」


 俺がスマホの画面をスワイプすると、自作のハッキングアプリが起動した。


 スマホの画面上で、幾何学的な術式コードが高速で書き換えられていく。


 封印のシステムを、力ずくでオーバーライドする。


 指先が熱い。古びた祠から漏れ出す重圧プレッシャーに、俺の自作デバイスが悲鳴を上げていた。


「カビ臭い封印なんか、俺のコードでこじ開けてやるよ! ……っ、開け! 」


 最後のキーを叩くと同時に、画面が真っ赤に反転した。


 警告音が止まり、漆黒の背景に白文字のログが流れる。


  [DECODING COMPLETE]

  [SEAL: RANK SSS - BROKEN]

  [OBJECT IDENTIFIED]

  [STATUS: 罪人(SINNER)]

  [NAME: 九曜眞白 (KUYO MASHIRO)]


「――罪人、九曜眞白……?」


 その名が画面に刻まれた瞬間、物理的な封印が内側から書き換えられ、幾千のお札が青白い火を吹いて燃え上がる。


 重低音と共に、石の扉がゆっくりと開いた。


 ほこりが舞う部屋の奥。


 そこに、彼女はいた。


 濛々(もうもう)と立ち込める煙の向こう側、銀色の髪が月光に触れて、氷のように冷たく輝いた。


 平安の装束を思わせる、真っ白な小袿こうちぎ


 透き通るような白い肌。


 数百年もの間、時を止めていたかのような、神秘的な美貌。


「……ん」


 長い睫毛まつげが揺れ、深紅の瞳がゆっくりと開かれる。


 彼女はぼんやりと辺りを見回し、そして目の前でホバリングしている『眼一号』の強烈なLEDライトを視界に入れた。


まばゆい。……何奴だ、ほうは。何故なにゆえ、我が眠りを妨げた」


 鈴を転がすような、凛とした声。


 目の前の少女が放つ呪力だけで、周囲の空間がミシミシときしんでいる。


 彼女の瞳には、数百年の孤独と、世界への深い拒絶が宿っていた。


 生唾を飲み込み、まだ手の内で震えているスマホ……そこに表示されたシステムログを見つめる。


 九曜眞白。おそらくそれが彼女の名前なのだろう。


 名前が分かれば、術式ハックの効率は格段に上がる。多少の実力差があったとしても先手を取って仕掛けることもできるだろう。


 だが、名前とともにシステムログに表示された『罪人』という言葉がそれ以上に気にかかっていた。


 それに、世界を拒絶するようなあの暗い瞳。あの目に、覚えがあった。


 実家を追い出された時の俺も、きっとあんな目をしていたに違いないのだ。


 身の安全を考えるならばこちらから先制攻撃を仕掛けるべきだろう。しかし、俺はどうしても彼女に危害を加える気にはなれなかった。


 俺は、彼女を一人の『人間』として認識するために、あえてその名を口にした。


「貴女は、九曜眞白……さん、でいいんですよね?」


 その瞬間、周囲の空気が凍りついた。


 少女の細い眉が跳ね上がり、紅色の双眸そうぼうが驚愕に見開かれる。


「――っ! 何故……何故、その名を知っておる!?」


 彼女が一歩踏み出す。その一歩だけで、地面がひび割れた。


「我が名は五百年以上も前に、この地の記憶から消し去られたはず。……貴様、ひいらぎの刺客か? それとも、私を呪ったあやつらの末裔まつえいか!」


 あまりの存在感に、俺は指一本動かすことができない。乾いた喉を必死に動かすのが精一杯だった。


 名前を知っているというだけで、彼女の警戒心は最高潮に達しているのだ。なんとかその警戒を解かねばならない。俺は、必死に声を絞り出した。


「いや、違う! 俺はただの……しがない配信者なんだ!」

「背信者……? 其の方も主を裏切ったのか?」


 何かを勘違いしているらしい彼女は、値踏みするように俺を見る。


 その表情の中に、微かな戸惑いと好奇の熱が混じっているのを俺は見逃さなかった。


 これ幸いとばかりに俺は畳み掛ける。


「配信っていうのはですね、このカメラドローンを使ってダンジョン探索の様子を全世界に放送してるんですよ。今、この瞬間をたくさんの人が見ているんです!」


 そう言いながらかたわらに浮かぶ式神型カメラドローン『眼一号』を示す。


 だが、これがまさか逆効果だとは思いもしなかった。


「……っ!? おのれ、それは……」


 彼女の目が鋭く細められた。


 彼女の視線の先には、ドローンのライト。そして、そのレンズの奥でリアルタイムに映像を処理している俺のスマホ画面。


 彼女は、ドローンのライトを――己の衣を透かし、肌を暴く『透視の法具』か何かだと勘違いしたらしい。


 顔を一気に朱に染め、彼女は身を隠すように両腕で己を抱きしめた。


「公衆の面前で、女子の肌を白日の下に晒そうとは……! 術師、其の方は正気か!?」

「え、いや、これはただのライトで、映像を配信するために――」

「黙れ! 破廉恥な! れ者が!」


 彼女の怒りに呼応するように、祠全体が激しく揺れ動く。


 その振動は、封印が解かれたことを感知した『何か』を呼び寄せてしまった。


 ズズッ……ズズズッ……。


 俺の背後の闇から、巨大な節足動物がいずる不気味な音が響く。


 振り向いた俺の視界に入ったのは、全長十メートルを超える上級怪異、大百足おおむかでの姿だった。


「――っ、しまっ……!」


 絶体絶命。


 だが、俺の目の前の少女は、怒りに震えながら指先を空にかかげた。

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