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異世界ふぁみりぃ ~のんびり異世界生活~  作者: すぱたま
異世界転移

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第1話 異世界生活始めます!

上野十夜ウェーノ・トーヤ・元会社員:≪ウィザード≫(あらゆる魔法が使用可能)

上野愛ウェーノ・アイン・元専業主婦:≪テイマー≫(あらゆる動植物と会話・手懐けることが可能)

上野創也ウェーノ・ソーヤ・元中学生:≪クリエイター≫(あらゆる物質から様々なものを創作可能)

上野遊也ウェーノ・ユーヤ・元小学生:≪ゲーマー≫(ゲームの世界のものを現実世界に召喚することが可能)

ある朝、上野遊也は、いつもと違う奇妙な感覚とともに目を覚ました。


背中に触れるベッドの感触も、壁に貼られたお気に入りのポスターも、見慣れた自分の部屋そのものだ。


なのに、妙な違和感が頭を離れない。


「なんだろう? 何かが変な気がする……。」


寝ぼけ眼をこすりながらカーテンを開けた瞬間、遊也は硬直した。

窓の外にあるはずの、見慣れた住宅街の電柱や隣家の屋根が消え失せていたのだ。

代わりに視界いっぱいに広がっていたのは、どこまでも青くきらめく地平線と、風に揺れる広大な緑の草原だった。


「いったいどうなってるんだ!? 夢でも見てる?」


何度も目を擦り、自分の頬をつねってみても景色は変わらない。困惑する遊也の耳に、開け放った窓から家族の賑やかな声が飛び込んできた。


「すごっ! 触るだけで形が変わるぞ、これ!」


興奮した兄・創也の声に続き、いかにも冷静さを保とうとする父・十夜のたしなめる声が響く。


「創也、いろいろ試すのはいいが、もう少し安全を確認してからにするんだ。……しかし、この現象は科学的には説明がつかんな……。」


「空もとってもきれいだし、空気も美味しくて清々しいじゃない〜。細かいことは気にしなくてもいいわよ。」


母・愛ののんきな声が混ざる。

遊也があわてて玄関から外へ飛び出すと、そこには上野家がポツンと大草原に孤立して建つ、あまりにもシュールな光景が広がっていた。

父は周囲に鋭い目を向けて警戒し、母は手の平に乗せた見知らぬ小鳥と楽しげにハミングしている。


「遊也、ようやく起きたか?」


創也が遊也に気づき、声をかける。

そして、十夜が深くため息をついた。


「どうやら……ここは異世界のようだ。何がどうなったかは分からんが、家ごと家族全員が丸ごと飛ばされたらしい。まったく、何がどうなっているのやら……。」


神妙な顔の父の横で、木の剣をぶんぶんと振り回していた創也が、ピタリと動きを止めて顎に手を当てた。


「これって、ラノベでよくある『異世界転生』だよね! でもさ、転生って普通は一度死んでから行くのが王道じゃん? だから、この場合は『異世界転移』かな。」


「転生でも転移でもどっちでもいいんだが、ここが地球ではないことだけは確かなようだな……。」


十夜が頭を抱える。


「我が家がそのまま残っているのは不幸中の幸いだが、どんな危険な魔物がいるかも分からない。これからどうやって生活していくか……。」


どんよりとした空気が漂いかけたその時、愛がぱっと顔を輝かせて十夜の腕に手を絡めた。


「まぁ、悩んでいてもお腹は空くし、解決しないでしょ? 家族みんなで力を合わせれば、何とかなるわよ。意外と楽しい世界かもしれないし。ね、あなた?」


「……確かに、愛の言う通りだな。やっぱり君はいつも前向きで頼りになるよ。愛してる♡」


「私もよ、あ・な・た♡」


一瞬でピンク色の結界が張られたかのように、二人の世界に没頭し始める両親。


「まったく、またいつものが始まったよ……。」


「ああなったら、周りの声なんて一切届かなくなるもんね……。」


兄弟は揃って肩をすくめ、あきれ顔で見つめ合う。「そんなことより……。」と言って、創也は木の剣を地面に突き刺して遊也に話しかけた。


「遊也。お前はどんなスキルをもらった?」


「スキルって……何のこと?」


「視界の右上の方を意識してみて。スマホの画面を見るみたいにさ。そうしたら『ステータス』が表示されるから。」


遊也が言われた通りに意識を集中させると、半透明の光るプレートが視界に浮かび上がった。そこにはHPやMPの数値と、誇らしげに輝く項目があった。


「異世界といえば、やっぱりユニークスキルでしょ♪」


創也が自分のステータスを指さしながら自慢げに笑う。


「俺のは《クリエイター》。説明には『あらゆる物質から様々なものを創作可能』って書いてある。この木の剣も、遊也が起きてくる前に、その辺に落ちてた枝を組み合わせて一瞬で作ったんだ。遊也も何かすごいのがあるはずだから、見てみなよ。」


遊也は自分の画面の一行をじっと見つめ、そして頬を膨らませた。


「え〜と、スキルは……《ゲーマー》って書いてある。……なんか、スキルっぽくないよ! これじゃただの趣味の紹介じゃん!」


「まぁまぁ、文句を言う前に能力の説明を読んでみなって。意外と使える能力かもよ?」


兄に促され、遊也はその下に書かれた説明に目を走らせた。


「……あっ。『ゲーム内のモンスターや武器、アイテムを現実世界に召喚可能』だって!」


「すげーじゃん! 特大のチートスキルじゃね!? 試しに何か出してみなよ。」


創也の目がキラキラと輝く。遊也はお腹がぐぅ、と鳴ったのをきっかけに、ニヤリと笑った。


「じゃあ、せっかくだから食べ物にしようかなぁ♪ ……ゲームに出てくる『ふわふわ特製パンケーキ』を召喚!」


遊也がパチンッと指を鳴らすと、虚空から光の粒子が集まり、目の前に純白のお皿が現れた。その上には、厚みが五センチはあろうかという、黄金色のパンケーキが三段重ね。バターが余熱でとろりと溶け、琥珀色のハチミツが美味しそうに滴っている。甘く香ばしい香りが大草原の風に乗って広がった。


「本当に食べられるかどうかも分からないのに、いきなり食い物を出すとは……さすが食い意地が張ってるだけあるな……。」


創也の呆れ声など耳に入らない様子で、遊也は一緒に召喚されたフォークでパンケーキをパクリと口に運んだ。


「だって、朝起きてお腹ペコペコだったんだもん! ゲームのグラフィックでいつも見てたやつ、一度食べてみたかったんだよね。……んんっ、信じられないくらい美味しい!」


あまりにも幸せそうに頬張る弟を見て、創也の喉がゴクリと鳴った。


「……ずるい、俺にも一口ちょーだい!」


「さっき『食べられるか分からない』って言ってたじゃん!」


「だって、これだけいい匂いがして、遊也が無事なら『毒見』は完了したってことだしさ♪」


「人を毒見に使うな!」


パンケーキを死守しようとする遊也に、創也は笑いながら手を振った。


「ごめんごめん。お詫びと言っちゃなんだけど、俺のスキルも見せてあげるよ。遊也、スキルでゲームから『プラスチックの板』を一枚召喚してみて。」


「もう、しょうがないなぁ……。」


遊也が《ゲーマー》を発動させ、手頃なプラスチック板を空間から引っ張り出す。

創也はそれをもらって、真剣な目で「変形」をイメージした。


「スキル《クリエイター》、発動!」


創也の手から淡い青光が放たれると、プラスチック板が生き物のようにドロドロと溶け、瞬時に幾何学的なパーツへと再構成されていく。

光が収まった時、創也の手の上には、四つのプロペラを持つスタイリッシュな黒い「飛行ドローン」が完成していた。


「すごいっ! 本物のドローンだ!」


「へへん、すごいだろ? ……でも、どうやって操縦するんだろ。リモコンも作らなきゃダメかな?」


創也が首を傾げた瞬間、ドローンがブゥーンと軽い駆動音を立てて勝手に浮上した。そのままぐんぐんと高度を上げ、上空10メートルほどでピタリと静止する。


(なるほど、頭の中で思った通りに動かせるのか! これは最高に面白いぞ!)


創也のイタズラ精神に火がついた。

ドローンを急降下させ、遊也の頭の周りをビュンビュンと旋回させ始める。


「わわっ! ちょっと、うっとうしいから僕の周りで飛ばすのやめてよ!」


「思った通りに操縦できるの、めちゃくちゃ楽しくてさ!」


怒る遊也は、負けじと《ゲーマー》でシューティングゲームの光線銃を召喚した。


「こうなったら撃ち落としてやる!」


ピピピッ、と光線が放たれるが、創也の思考速度で動くドローンの機動力は凄まじく、すべての攻撃が虚空をかすめるだけだった。


「こら、お前たちは異世界に来てまで何をやっているんだ。……《フリーズ》。」


その瞬間、空間の動きが止まったかのように、ドローンのプロペラが完全に静止し、重力に従って地面へとポトリと落下した。

創也が頭の中でどれだけ命令を送っても、ドローンはピクリとも動かない。


「俺のドローンが壊れた!? ……いや、もしかして、父さんのスキル?」


「あぁ、父さんの魔法でドローンの運動エネルギーを完全に停止させたんだ。」


「「ええっ!? 父さん、魔法が使えるの!?」」


兄弟の声が見事にハモる。


「私のユニークスキルは《ウィザード》。あらゆる属性の魔法が使用可能だ。」


「「すげーっ!」」


十夜のステータスを確認すると、MPの消費ゲージが存在しなかった。


「魔法を使うとき、スキル経由だからか、どうやらMPの消費自体がないみたいなんだ。だから、無限に魔法が使えるな。」


「それって完全にチートじゃん! 神様、設定を盛りすぎでしょ!」


創也が羨望の眼差しを向けていると、両肩にカラフルな小鳥を乗せた愛が、ふわりと歩み寄ってきた。


「あら、今頃気づいたの? お父さんはいつでも最高にすごいのよ♡」


「いや、君ほどじゃないさ。真に素晴らしいのは愛、君の方だ。」


またしても二人だけの甘い空間が形成されかけるのを、創也が必死に止める。


「ストップ、ストップ! ちなみに、 母さんはどんなスキルだったの?」


「私は《テイマー》だって。あらゆる動植物と会話ができて、手懐けることができるんですって。ねー?」


愛が肩の小鳥に微笑みかけると、小鳥たちは嬉しそうにチチチッと鳴いて彼女の頬に擦り寄った。


「母さんも相当なチートスキルだね……。」


遊也が感心しながらも、お腹を押さえた。


「母さん。僕まだちゃんとした朝ごはん食べてないから、お腹空いてきた……。」


「さっき特大のパンケーキ食べてたじゃん!」


「あれはデザートだから、ノーカウント!」


微笑ましい兄弟の小競り合いを見つめながら、十夜は愛と視線を交わして優しく微笑んだ。


「じゃあ、いったんみんなで朝ごはんにしよう。これからのサバイバル計画は、美味しいものを食べながら考えればいい。」


家族一同は小鳥たちに見送られながら、異世界の我が家へと戻っていった。


(家族全員でこんな見知らぬ世界に来ることになるとは……。だが、何があってもこのチート能力と我が家があれば、家族を守り抜けるはずだ……。)


生真面目に決意を新たにする十夜の隣で、愛は鼻歌を歌っていた。


(まさか家族みんなで異世界ピクニックなんてね。これからどんなワクワクする生活が始まるのかしら、楽しみね!)


こうして、上野家の記念すべき異世界生活一日目は、信じられないほど穏やかに幕を開けたのだった。


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