第65話 九条姉妹
荷物をまとめ終えた東鶴間高校野球部は、重い足取りで球場を後にしようとしていた。
誰も、大きな声を出さない。
敗北の重みが、全員の肩にのしかかっていた。
その時だった。
正面から歩いてくる集団があった。
桜桜花高校野球部――勝者たちだった。
東鶴間の選手たちの足が、自然と止まる。
そして、その先頭に立つ人物を見て――九条咲は目を細めた。
「あら、咲ちゃん……」
柔らかな声だった。
「今日は残念だったわねぇ」
桜桜花高校監督――九条神楽。
咲の実の姉である。
咲は、静かに息を吐いた。
「姉さん……」
視線を逸らさずに言う。
「こんな時に会うなんて……」
神楽は、まるで気にしていない様子で微笑んだ。
「あら、こんな時にしか会えないんだから」
「少しは話をしてもいいじゃない」
その言葉は、姉としてのものなのか――
それとも、勝者としてのものなのか。
咲には、判断できなかった。
「姉さん……」
咲は、低く言った。
「うちは今、それどころじゃないんだよ」
その言葉の裏には、抑えきれない悔しさが滲んでいた。
だが神楽は、変わらぬ調子で続ける。
「あらまぁ……」
「東鶴間高校のみなさんも、頑張っていたじゃない」
少しだけ目を細めて言った。
「うちから5点も取ったんだから」
その言葉に、咲の表情がわずかに歪んだ。
「……うちは、17点も取られているんだが」
静かな声だった。
だが、その一言には、敗者の現実が込められていた。
神楽は、首を傾ける。
「まあ、うちは県大会優勝を狙っているもの」
当然のように言う。
「ここで体力を使うわけにはいかなかったんだもん」
その言葉は、事実だった。
だからこそ――残酷だった。
咲は、小さく笑った。
「ひどいや、姉さん」
「傷心の私たちに塩を塗るなんて」
神楽は、すぐに答える。
「別に、傷口に塩は塗ってないわよ」
本気でそう思っている顔だった。
そのやり取りを見ていた両校の選手たちは、互いに顔を見合わせていた。
そして――同じことを思っていた。
――この二人、本当に姉妹なのか?
敗者と勝者。
妹と姉。
監督と監督。
そのすべてが交差する中で――
二人は、ただ静かに向かい合っていた。




