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第63話 東鶴間、夏の終わり

 桜桜花高校との試合が終わり、

 東鶴間高校野球部の面々は、グラウンドの片隅に集まっていた。


 誰も、すぐには言葉を発せなかった。


 ベンチには、うつむいたまま動かない三年生の姿があった。

 目を赤くし、涙を拭う者もいる。


 ――今日が、最後の試合。


 その事実が、遅れて胸に落ちてきていた。


 沈黙を破ったのは、監督の九条咲だった。


「……みんな、泣くな……と言っても、無理な話だよな」


 静かな声だった。


「三年生は……これで、本当に最後の試合になったんだから……」


 誰も顔を上げなかった。

 それでも、全員が監督の言葉を聞いていた。


 九条咲は、一度小さく息を吸い込んでから、続けた。


「みんなに……謝らなければいけないことがある」


 その言葉に、何人かが顔を上げた。


「私は、本当なら指導しなければいけない立場だった。

 なのに……何もしてこなかった。

 お前たちを、ちゃんと導いてやれなかった……」


 そして、はっきりと頭を下げた。


「……すまなかった」


 一瞬、空気が止まった。


 だが、次の瞬間――

 三年生の一人が、首を横に振った。


「そんなこと、ないですよ……監督」


 それを合図に、次々と声が上がる。


「そうですよ。俺たちが、万年一回戦負けに慣れすぎてたんです」

「そのせいで、監督のやる気を奪っていったんです」

「それに……俺たちは、監督と一緒に野球ができて、嬉しかったです」

「だから……謝らないでください、監督」


 泣きながら、必死に言葉をつなぐ三年生たち。


 九条咲は、しばらく何も言えなかった。


 そして、ゆっくりと顔を上げる。


「……お前たち……ありがとう」


 その目には、涙がにじんでいた。


「私は……本当に、いい教え子たちを持ったんだな」


 誰かが、嗚咽を漏らした。


 こうして――

 県大会四回戦まで進んだ、東鶴間高校野球部の夏は、

 静かに、幕を下ろそうとしていた。


 負けた悔しさも、

 やり切った誇りも、

 すべてを抱えたまま――。

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