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第47話 偵察

 東林高校が敗れた瞬間、

 球場はどよめきに包まれていた。


 だが、そのざわめきを、

 少し離れた場所から静かに見つめている集団があった。


 桜桜花さくらおうか高校野球部。


 次の対戦相手が、

 東林高校ではなく――

 東鶴間高校に決まった瞬間でもあった。


「ほらね」


 ベンチの前で、斉藤秀一が小さく笑った。


「みんな、僕の言ったとおりだ。

 次の相手は、東鶴間になっただろ?」


 隣にいたマネージャーの若林京子が、頷く。


「ええ……本当に、秀一君の言った通りになったわね」


 彼女の視線の先では、

 勝利に沸く東鶴間ナインが、マウンドを囲んでいた。


 その光景を見ながら、

 斉藤はどこか楽しそうに息を吐いた。


「……面白くなってきたな」


「ずいぶん楽しそうだな、秀一」


 そう声をかけたのは、

 同じく桜桜花の選手、秋月小十郎だった。


「当たり前だろ」


 斉藤は、即答した。


「高柳龍二郎。

 高橋雪夜。

 天宮真十郎。


 ――あの三人は、間違いなく“本物”だよ」


 その目には、確信があった。


「特に、天宮君だ。

 東林を相手に、九回を投げ切って無失点。

 あれは、偶然じゃない」


「でも……」


 若林が、少し慎重に言葉を挟む。


「天宮君は要注意人物ね。

 あの東林を、完全に封じた投手だもの」


 斉藤は、首を横に振った。


「だからこそ、だよ」


「……どういうこと?」


「次は、投げられない」


 その言葉に、秋月が眉を上げる。


「根拠は?」


 斉藤は、東鶴間のベンチから去っていく天宮の背中を見つめた。


「あの試合、

 全力で抑えに行ってた。


 一年生で、九回完投。

 無理をしない理由が、どこにもなかった。


 ――体力的に、次は無理だろうね」


 冷静な分析だった。


「……それなら、少しは楽になるわね」


 若林が、静かに言う。


 斉藤は、口元を歪めた。


「でも、油断はしない。

 僕たちの目標は、県大会優勝だからね」


 その声には、一切の迷いがなかった。


「弱小だろうが、奇跡だろうが――

 容赦はしないよ」


「みんなー、そろそろ帰るわよー」


 桜桜花高校の監督の声が、グラウンドに響く。


「はーい」


 選手たちは、ゆっくりと球場を後にしていった。


 斉藤は、最後にもう一度だけ、

 東鶴間のベンチを振り返る。


「……待ってるよ、東鶴間」


 その言葉は、誰にも聞かれなかった。


 その頃。


 東鶴間高校野球部は、

 自分たちに向けられ始めた“視線”の存在を、

 まだ知る由もなかった。


 勝利の裏で、

 不穏な影が、静かに近づいていることを――。

ここまで読んでいただきありがとうございます。ここから桜桜花高校編となります。これからもよろしくお願いします

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