第20話 東栄高校
練習試合当日。
東鶴間高校野球部の部員たちは、グラウンドで東栄高校の到着を待っていた。
「……とうとう、この日が来たな」
キャプテンの渡辺貴明が、静かに言った。
「みんな。練習の成果を、見せようじゃないか」
その言葉に、部員たちの表情が引き締まる。
緊張はしているが、逃げ腰ではなかった。
「……来たみたいだぞ」
高柳龍二郎が、高橋雪夜の隣で言った。
「そのようだね」
視線の先に、一台の大型バスが見える。
ゆっくりと校門をくぐり、グラウンド脇に停車した。
バスの扉が開き、東栄高校野球部の選手たちが次々と降りてくる。
――雰囲気が、違う。
無駄な動きがなく、立ち姿ひとつ取っても洗練されていた。
東鶴間の部員たちは、思わず息をのむ。
やがて、東栄高校の副監督が、東鶴間高校のベンチへ歩いてきた。
「どうも、初めまして」
落ち着いた声で、頭を下げる。
「東栄高校野球部、副監督の竹村中正です」
「どうも」
九条咲監督が応じる。
「東鶴間高校野球部の監督、九条咲です」
「今日は、試合を受けていただきありがとうございます。
良い試合にしましょう」
「ええ……こちらこそ」
「では、ルールはどうしましょうか」
「通常のルールで構いません」
「分かりました」
竹村は頷き、続けた。
「コールドありでお願いします。
それと……今回は、こちらは全員一年生でいかせてもらいます」
「……分かりました」
短いやり取りを終え、両監督はそれぞれのベンチへ戻っていった。
「お前たち、良かったな」
九条が、部員たちに言う。
「相手は全員、一年生だそうだ」
「良くないですよ、監督」
渡辺が、すぐに返した。
「一年生とはいえ、相手は東栄です。
しかも……佐藤秋一郎がいます」
「まず、苦戦しますよ」
「……そうなのか」
九条は、あまり気にしていない様子で言った。
「それは大変だな」
「監督……他人事みたいに言わないでくださいよ」
「お前たちが勝つとは、正直思ってないからな」
九条は、あっさりと言い切る。
「まあ、気楽にいけ」
その一言で、監督の話は終わった。
高柳が、雪夜のほうを見た。
「なあ、高橋。この試合、どうなると思う?」
「どうなるかは、分からない」
雪夜は、正直に答えた。
「でも……監督の言う通り、気楽にやったほうがいいよ」
「……そうだな」
高柳は、小さく息を吐いた。
「俺も、そうするか」
こうして――
東鶴間高校と東栄高校の試合は、
静かな緊張の中で、始まろうとしていた。




