第174話 四回戦の相手
三回戦を勝利した東鶴間高校野球部は、すぐに次の戦いへ向けて練習を再開していた。
目指すは――去年、越えられなかった四回戦。
だが。
その対戦相手が決まった瞬間、野球部の空気は一気に沈んでいた。
理由は、誰の目にも明らかだった。
次の相手。
それは――去年の県大会ベスト4、大王高校。
県内でも名の知れた強豪校だった。
特に注目されていたのは、エースピッチャーの外藤祐吉郎。
最速147キロ。
キレのあるスライダーとフォークを武器にする本格派右腕で、今年のドラフト候補とも言われている実力者だった。
そんな相手と、四回戦で当たる。
東鶴間野球部の面々は、現実を受け止めきれずにいた。
「さすがに……相手が悪すぎるだろ……」
誰かが、小さく呟く。
部室でも、重苦しい空気が流れていた。
監督の九条咲は、ため息混じりに言った。
「まさか……くじ運が良くないとはいえ、大王高校に当たるなんて……」
そして、部員たちは地方新聞の記事に目を向ける。
そこには、大王高校監督のコメントが載っていた。
『東鶴間高校……知らんな。弱小なんだから、うちは三番手投手を投げさせる。まあ、コールドにならなければいいがな』
部室の空気が凍りつく。
あまりにも露骨な見下しだった。
九条咲は新聞を机に置き、静かに言った。
「……いくらうちが弱小高校でも……舐められたものだな」
野球部の面々も、内心では同じことを思っていた。
(いくらなんでも、言い過ぎではないだろうか……)
悔しかった。
怒りもあった。
だが同時に――。
去年の自分たちなら、その言葉を否定できなかったことも理解していた。
万年一回戦負け。
一昨年までの東鶴間は、確かにそういうチームだった。
それでも。
今年は違う。
桜桜花高校と引き分けた。
三回戦まで勝ち上がった。
少しずつだが、東鶴間は変わっていた。
だからこそ――。
去年、五回コールドで敗れた四回戦。
その先へ進むために。
打倒・大王高校。
その想いを胸に、東鶴間高校野球部は再び練習の日々へと戻っていくのだった。




