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第137話 桜桜花戦、七回表

 七回表――

 東鶴間高校の攻撃。


 七番・早田士郎。


 右打席。


 マウンドの金村歳郎は、余裕の表情だった。


(……下位打線か。楽勝だな)


 その慢心どおり――


 早田は空振り三振。


 ワンアウト。


 そして――


 八番・高橋雪夜。


 右打席。


 歳郎は、ちらりと雪夜を見る。


(控えだった奴か……大したことはないな)


 初球。


 外角ストレート。


 迷いのない一球。


 だが――


 雪夜は、待っていた。


 振り抜く。


 打球は、右中間へ。


 伸びる。


 そのまま――


 ツーベースヒット。


 一気に二塁へ。


 歳郎の表情が、わずかに変わる。


(……たまたまだろう)


 そう、自分に言い聞かせる。


 九番・伯方歩夢。


 左打席。


 初球。


 外角――高速スライダー。


 だが、歩夢は崩れない。


 逆らわずに流す。


 打球はレフト前へ。


 ヒット。


 ランナー三塁・一塁。


 東鶴間、チャンス。


 そして――


 一番・高柳龍二郎。


 右打席へ――


 その時だった。


 桜桜花ベンチが動く。


 監督・九条神楽が、手を上げる。


 投手交代。


 マウンドに、桜桜花ナインが集まる。


 歳郎は、納得がいかない表情で言った。


「監督……僕はまだ投げられます」


 神楽は、穏やかな笑みのまま答える。


「そういうことじゃないのよ」


 その声は、優しいが――


 はっきりしていた。


「あなた……聞けないでしょう?」


 歳郎は、言葉を失う。


 あの場面――


 高柳龍二郎の2打席目、敬遠のサインを無視したこと。


 一度はサインを間違えたと言い訳を言った。


 だが、練習試合であっても、“ミス”では済まされない。


 神楽が見逃すはずがなかった。


「……分かったかしら。交代よ、歳郎君」


 歳郎は、拳を握る。


 だが――


 何も言わず、ベンチへと下がった。


 新たにマウンドへ上がるのは――


 伯方広夢。


 静かな視線で、グラウンドを見つめている。


 そして、試合は再開する。


 打席には――


 高柳龍二郎。


 東鶴間、最大のチャンス。


 試合が、大きく動こうとしていた。


 七回表――

 ワンアウト三塁・一塁。


 打席には、一番・高柳龍二郎。


 左打席。


 桜桜花ベンチは、迷わなかった。


 捕手・金村好郎は、静かに立ち上がる。


 ――敬遠。


 四球。


 満塁。


 だが、その判断に迷いはない。


(ホームランだけは、絶対に避ける)


 ベンチの意思は、はっきりしていた。


 二番・六条遊人。


 左打席。


 満塁。


 重圧のかかる場面。


 初球。


 外角低め、ストレート。


 六条は見送る。


 ボールと思った。


 だが――


 ストライク。


 カウントを取られる。


 二球目。


 内角低め、カーブ。


 なんとか当てる。


 ファウル。


 ツーストライク。


 追い込まれる。


 三球目。


 外角低め――シンカー。


 沈む。


 六条は振る。


 だが――


 空を切る。


 三振。


 ツーアウト。


 桜桜花バッテリーは、徹底して低めを攻め切った。


 三番・新井元気。


 左打席。


 なおも満塁。


 ここで一本出れば――


 試合はひっくり返る。


 初球。


 低め、フォーク。


 元気は迷わなかった。


 振り抜く。


 打球はレフトへ。


 落ちる。


 ヒット。


 三塁ランナーが還る。


 6対6。


 同点。


 なおも満塁。


 四番・浮田総二。


 左打席。


 チャンスは続く。


 だが――


 桜桜花バッテリーは崩れない。


 丁寧な配球。


 コースを突く。


 浮田は打ち上げてしまう。


 センターフライ。


 アウト。


 チェンジ。


 同点。


 だが――


 逆転までは届かなかった。


 そして七回裏。


 東鶴間ベンチが動く。


 投手交代。


 伯方歩夢に代わり――


 白石広志。


 試合は、終盤戦へと突入していく。

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