第124話 出迎え
桜桜花高校へ向かうバスは、静かに校門をくぐった。
東鶴間高校野球部の面々が降りると、そこには桜桜花高校野球部監督・九条神楽が立っていた。
「咲ちゃん、そして東鶴間高校野球部のみなさん……ようこそ、我が桜桜花高校へ」
穏やかな笑顔で迎える。
九条咲が頭を下げた。
「神楽姉さん、お久しぶりです」
神楽はくすっと笑う。
「あらあら、電話なら頻繁に連絡しているじゃない」
「直接会うのは、久しぶりでしょう」
「それもそうねぇ……まあいいわ、早速グラウンドに案内するわね」
神楽の案内でグラウンドへ向かう。
整備された土、均一な外野の芝、設備の整ったベンチ。
東鶴間の選手たちは、自分たちの環境との差を感じていた。
すでに桜桜花高校の選手たちは練習をしていた。
やがて桜桜花のウォーミングアップが終わり、東鶴間のウォーミングアップが始まる。
その間――
高橋雪夜と九条咲は、小さく作戦会議をしていた。
「まず、龍二郎が先頭打者ホームランを狙ってみます。相手に意表をつこうと思います」
咲は腕を組む。
「高柳ならできそうだが、その後が続くかどうかだな」
雪夜は静かに言った。
「僕たちの目標は、コールド負けを防ぐことと、相手に完封をさせないこと。この二つです」
咲は小さく息を吐いた。
「やはり、勝つのは至難の技か……」
その時、背後から声がした。
「咲ちゃん、その子が高橋雪夜君ね」
神楽だった。
雪夜は丁寧に頭を下げた。
「こんにちは、九条神楽さん」
神楽は目を輝かせた。
「まあ、なんて礼儀正しい子なの……それに可愛い……どう、うちに転校してこない? 即捕手として歓迎するわよ」
咲が即座に言った。
「それは駄目だ。私の教え子だ」
神楽は笑った。
「冗談よぉ……咲ちゃんって、本当に可愛いわねぇ」
咲はため息をついた。
「……姉さん、話があって来たんでしょう」
神楽は思い出したように言った。
「そうだったわぁ……うちの金村歳郎君のことなんだけど……あの子、実力はあるんだけど、プライドも高いのよねぇ」
「強豪校に誘われる奴は、そんなもんじゃないのか」
「秀一君は、そんな子じゃなかったもん」
「ああ……斉藤秀一のことか」
神楽は懐かしそうに言った。
「あの子は性格も良かったし、可愛かったし、あの頃は楽しかったわぁ」
咲は呆れたように言った。
「……姉さん……」
神楽はにやりとした。
「だから、咲ちゃんも早く、雪夜君となかよ――」
言い終える前に、咲が神楽の口を塞いだ。
「わぁー、姉さん!」
神楽は不満そうに言う。
「ひどいよ咲ちゃん。お姉ちゃんの口を塞ごうなんて」
「姉さんがいらん事を言おうとしたからじゃないか」
「だってぇ……咲ちゃんをからかうの、楽しいんだもん」
咲はため息をついた。
「姉さん……自分の教え子はいいのかい」
「それもそうね。それじゃそろそろ戻るわね……雪夜君、また次の機会にね」
神楽は軽く手を振って戻っていった。
雪夜は小さく言った。
「……監督のお姉さんって、愉快な人ですね」
咲は苦笑した。
「まあ……私はああいうところが苦手なんだが……」
やがて――
東鶴間高校のウォーミングアップも終わった。
桜桜花高校との練習試合が、いよいよ始まろうとしていた。




