1.水晶の記憶
自分と同じ歳くらいの青年から、手の平大の水晶の六角柱、レコードキーパー、マスタークリスタルと呼ばれるものを私は手渡された。
そしてそのポイントの柱面に刻まれたバーコード状の段差、細やかな条線を爪でなぞった。
上側になぞるとオープン、下側になぞるとクローズだと、聞いてもいないのに彼が説明してくる。
一体何の開閉なのかも私はわからないのに。
「開けたかい?」
「······多分」
私は不安げに答える。
「じゃあ、今度は三角を眉間にそっと押し当ててみて」
「三角?」
目を凝らして見ると、いくつかの小さな上向きと下向きの三角形状のものがあった。これのことなのかな?
なんだかこのクリスタルってリモコンか何かの受信機みたいだ。
怪しい儀式をさせられているような感覚にはっとなって私は怯んだ。
宗教的なイニシエーションのようなものに思えてしまったからだ。
「それは君にとって必要な情報だよ」
「でも······」
彼は急かしはしないけれど、私がそうすることを期待し待っている。
わかってはいるけど、それでも躊躇してしまう。
───私は何を怖れているのだろうか?
勇気を出して水晶を眉間に近づけているところで目が覚めた。
最近この夢を繰り返して見るようになった。
私は時々予知夢を見ることがある。
けれど、その精度は低い。私の解釈する力が未熟だからだ。的確に読み解く力、経験値が破滅的に足りない。
以前、私の未来の伴侶だとてっきり思っていた男性の夢も、それは私の過去の記憶に過ぎず、男性が若い頃の父だったりしたこともある。
そんなだから私の予知は当てにならないのよね。他者への予知は精度は高いのに、自分に関するものはそうじゃないなんて残念すぎる。
私は自分の予知やチートを過信はしない。したくてもできないのだ。
煌めく水晶に内臓された私だけのメモリーなんてロマンチックではあるけれど、なぜかその内容を知るのが怖い。
私は何か大切なことを忘れているの?
思い出さないといけないとか、 知らなければならない重大なことがあるの?
それとも、これから何かが起きるという予兆なのだろうか。
こんな風にハッキリわからないなら、中途半端なお知らせ、不完全な予知能力なんてかえって邪魔だからいらないのに。
私はできれば普通の大学生でいたい。
普通に社会へ出て、微々たるものでも役に立ちながら、悪目立ちしたりせずに静かに生きて行きたい。
このヘンテコな名前と見てくれでも、複数のチートが普通とは言えなくても。




