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雨列車

真っ白な蒸気をあげながら、

列車は力強く前進していた。

薄い青色で統一された質素な色合いと

細部まで凝ったデザインが相まって、

儚くもかっこいい雰囲気がある。

乗る人はみんな笑顔で、

自分達の旅行が素晴らしいものであったと

心から思っていた。

乗った誰もが褒め称え、

全人類から尊敬されていた列車。

その列車が残した数々の思い出や感動、

全てが今もなお語り継がれ、

人々の心の中に生きている。


「さぁご覧ください!

こちらが、最古にして最高と名高い、

あの有名な原初の雨列車『レイニー』!」


雨列車…その名の通り、

雨を原動力として動く列車だ。

車体から雨を吸い込んで

エネルギーに変換し、

そのエネルギーで歯車を回す。

雨さえ降れば、砂漠でも星空でも、

どこへでも走ることができる。

レイニーは最初の雨列車として

この世界を走り回り、

100年以上もの間、人々を感動させてきた。

そして、レイニーが現役から引退して

展示されるようになったのは、

今から約30年前のことだ。


「これが…レイニー……。」


今から約30年前。

遥か空の旅行から帰ってくると、

突如としてレイニーは動かなくなった。

当時レイニーの操縦士をやっていた

男性に話を聞いたところ、

旅行の最中に異変などはなく、

いつも通り快適に走っていたという。

多くの研究者や技術者が

レイニーの点検を行ったが、

問題など一つも見つからず

頭を抱えるばかりだった。

雨の代わりにただの水や海水、

川の水など数々の代案を試したが、

レイニーが再び動くことはなかった。

だから、人々は惜しいと思いながらも

レイニーを休ませることにしたのだ。

レイニーが人を乗せるようになってから

実に100年以上もの時が過ぎていたので、

雨列車の寿命ではないかと噂された。

そして、レイニーを知る者が

子どもや孫に色々な思い出を語り継ぎ、

今ではレイニーをモデルにした

絵本が世界中で売られている。


「そこの少年。

レイニーを見るのは初めてかな?」


レイニーが展示されているのは、

レイニーが初めて客を乗せたとされる

シルム駅から歩いて数分のロディオ広場。

元々10両編成だったレイニーだが、

長さの関係もあって、

展示されているのは6両分だけ。

残されている後尾4両は、

今後の研究の為に各地の研究所へ運ばれた。

ロディオ広場からはみ出さんばかりの

存在感と重量感があるレイニーを、

1人の少年が眺めていた。

少年は10歳前後で、

手入れをしていないのか、

海色の髪はボサボサだ。

服装も薄汚れたボロTシャツと

一部が破れた短パン。

どこかの孤児だろうか。

その少年の後ろから、

ガイドの女性が声をかけた。

女性の方を振り返った少年は、

何も言わずに首を縦にコクリと振ると、

無言のままレイニーへ向き直る。


「君はどう思ったかな。

かっこいい?それともかわいい?」


女性は少年の顔を覗き込むように

少年の横へ移動して膝を抱える。

女性は笑顔で声をかけたつもりだったが、

少年は気にする素振りもなく

レイニーを見つめたまま。

レイニーを見てはいるが、

少年の目はどこか遠くを見ているようだ。

その視線の先を女性も見てみるが、

少年が何を見ているのか

女性に理解することはできなかった。


「…寂しそう。」


「え?」


女性が聞きたかった答えと、

少年が言った答えが

微妙にズレていたために、

女性は思わず聞き返してしまった。

寂しそう……?

確かに、今日は他の日と比べて

この旅行をしている客は少ない。

しかし、それでも200人以上はいるし、

レイニーを見れたことで

興奮している子ども達も溢れている。

一体、レイニーの何を見て

寂しそうなどという感情を覚えたのだろうか。

雨列車のガイドを始めて

10年程が経った女性であるが、

レイニーを見て寂しそうと

言った人は初めてだった。

もっと詳しく話を聞きたいところだが、

そろそろ次の目的地を

目指さなくてはならない。


「『サミダレ』にお乗りの皆様ぁ!

間もなく次の目的地に向かいますので、

ご搭乗お願いしまぁす!」


サミダレは、レイニーの構造を元に

日本で造られた雨列車の名前である。

レイニーが動かなくなる以前から、

レイニーに代わる雨列車が

世界各地で開発されていたが、

その中でもサミダレは、

シトシトと降る雨のように静かに走り、

乗り心地がいいと人気を集めていた。

群青色が基調とされたデザインは、

レイニーのような繊細さはないが、

より力強く、より遠くまで

客を乗せて走れそうだ。

更にサミダレは他の雨列車に比べても

圧倒的な貯水量を誇っており、

一度の雨で10日も走ることができる。

女性が大きな声で言うと、

サミダレに向かって

多くの人が歩き始めた。


「それでは、出発しますっ!」


客が乗り込んだことを確認して、

女性は運転席に無線を送る。

大きなうねり声をあげながら

サミダレはゆっくりと動き出し、

12両もある全体を引っ張る。

次第にサミダレの車輪は地を離れ、

よく晴れた空へ昇っていった。

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