第84話 殺人カップルは世界を味わい尽くす
一つの国家だけを再生させると、余計な争いが起きてしまう。
それを学んだ我々は早々と帝国を滅亡させると、今度は大陸を丸ごと蘇らせた。
次こそは完璧なやり直しをするためだ。
事の経緯を知っているのは我々のみで、蘇った人々は何も知らない。
召喚したのは我々が記憶を取り戻す前の時代であった。
英雄連合もなく、殺人鬼の被害を受けていない国々である。
自分達が死んだことを認識しておらず、それを指摘する者もいなかった。
誰もが同じ条件だ。
彼らは何の齟齬もなく生活を再開した。
それを見届けた我々はひどく安堵したものだ。
同じ要領で世界全土を再生していった。
何もかもが元通りになる。
狂ったように殺し尽くしてきた我々だが、ここでようやく冷静になった。
ボーダーラインをとっくに踏み越えていたことを自覚し、しばらくは大人しくしておくことに決めた。
辺境の地にて浮遊島を改良したり、穏やかな夫婦生活を送り始めた。
再び回り始めた世界は、やはり争いが絶えなかった。
とは言え、我々が暴走していた時期と比べれば遥かに平和である。
すべてが滅ぶことはない。
そういった事態が起きそうな時は事前に対処した。
やりすぎないように注意しながら密かに排除していく。
ある意味では救世主とも言える行動かもしれない。
残念ながら我々の動機は正義とは程遠いのだが。
この頃から我々は不老の魔術を使用し、さらに不死の妙薬を摂取した。
どちらも世界を滅ぼす過程で見つけたものだ。
これでよほどの特殊な手段でない限り、殺される心配はなくなった。
名実ともに不死身の殺人鬼に昇格したわけである。
せっかく二度目の人生を得たのだ。
緩やかに老いて死ぬのはもったいない。
ファンタジーな異世界はそういった悩みも解消してくれる。
感謝する他ないだろう。
それから数年後、世界が安定し切ったのを見計らって我々は殺戮を開始した。
最初は前世で繰り返した強盗を実施して、各地で豪遊を繰り返す。
第二段階として、国家権力を相手に暴力の限りを尽くした。
地球では間もなく追い詰められて死ぬ羽目になったが、転生した我々は凄まじい能力を持つ。
逆らう者は皆殺しにしていった。
そうして各国を旅行して、欲望のままに暴れ続ける。
再生した世界に殺人鬼の名を轟かせるのであった。