第73話 殺人カップルは開戦を喜ぶ
数時間後、レーダーに反応があった。
どうやら英雄連合が接近中らしい。
先鋒である竜騎兵のお出ましというわけだ。
数はおよそ百。
さすがに全員が英雄というわけではないだろうが、エリートには違いない。
たった百騎で仕掛けてくる点から考えるに、こちらの戦力把握が目的か。
牽制的な意味合いが大きいはずだ。
ヒットアンドアウェイですぐに戦線離脱を選ぶ可能性がある。
或いは別動隊が到着するまでの時間稼ぎや陽動かもしれない。
まあ、いずれにしても楽しませてくれるのなら問題なかった。
魔王都市の軍事基地はさっそく行動に移る。
用意されていた戦闘機が次々と空へと飛んでいく。
さらに対空ミサイルが稼働し、接近する敵をいつでも撃墜できる態勢に入った。
国も時代も異なる即席軍であるが、同じ境遇に置かれた者として連携している。
我々が指示を出さずとも上手くやってくれていた。
「さて、我々も準備をしようか」
「どうやって参戦するつもりなの?」
「とりあえずヘリが無難だろう。観戦するにはちょうどいい乗り物だ」
「私も英雄連合を殺したいわ」
「介入するのは中盤以降の予定だ。すまないが我慢してくれ」
「ダーリンのお願いなら仕方ないわね」
聞き分けの良いジェシカを褒めつつ、私は召喚したヘリに乗り込む。
ついでに近くにいた軍人に声をかけて三人ほど同乗させた。
戦闘時に少し手伝ってもらうための要員だ。
彼らは随分と嫌がっていたが、残念ながら反論する術を持たない。
上司に報告だけ済ませて私達に従ってくれた。
機体はすぐに飛び立って、戦闘機の向かった方角に進み出す。
「竜騎兵は戦闘機に敵うのかしら」
「意外に拮抗しそうだと予想しているのだがね。こればかりは分からないな」
「賭けでもする?」
「いいね。では私は英雄連合の優勢に一万ドルにしよう」
ジェシカは魔王都市の軍に一万ドルを賭けた。
ちなみに魔王都市では主にドル紙幣が流通している。
ジェシカとはたまに賭けを行っていた。
まあただの暇潰しである。
紙幣はいくらでも召喚できるため、あまり緊迫感は無かった。
我々にとって味方の損害すらも興味の対象に過ぎなかった。
簡単にやられるような編成ではないものの、それを打ち破りかねないのが連合軍だ。
願わくば両軍共に期待を裏切ってくれないことを祈っている。