第70話 殺人カップルは騒ぎを眺める
数日後、英雄連合がその存在を公表した。
そして新たな魔王に対して、大々的に宣戦布告を行った。
おそらく諸々の準備が済んだのだろう。
いよいよ殺し合うことができるというわけだ。
世界中の人々が沸き上がっていた。
我々のもたらした被害は甚大で、名実ともに魔王として扱われている。
どうにかしてほしいという空気が漂っており、英雄連合はそれを叶える組織として生まれたのだ。
各国が力を合わせて組み上げた軍隊は、大いに歓迎されていた。
英雄連合は既に動き出している。
竜騎兵の部隊が魔王都市――すなわちこの地に迫っているそうだ。
こちらの見立てだと半日後には襲来するらしい。
我々は迎撃態勢の展開を余儀なくされた。
警報の鳴り響く魔王都市は慌ただしい。
一般市民は近くのシェルターに逃げ込んでいた。
あんなものは魔術で簡単に吹き飛ぶが、心理的な安心感はあるだろう。
さすがにこの状況で普段通りの暮らしはできないと思う。
(もし我々が負けたら、この都市はどうなるのだろうな)
地球の技術が惜しみなく使われた場所だ。
異世界人にとっては宝の山ではないだろうか。
ここに住む人々は奴隷になりそうな気がする。
或いは人体実験のモルモットか。
何にせよ人道的な扱いは望めまい。
まあ、その辺りは心配する意味もないことだ。
別に彼らがどうなろうと心は痛まない。
手間はかかるものの、魔王都市はまた造り直せばいいだけなのだ。
住民だって召喚魔術でいくらでも補充できる。
そもそも我々の敗北はありえない。
これは大規模な娯楽だ。
世界を巻き込んでいるだけで本質的には暇潰しに過ぎないのである。
フィナーレは華々しい勝利を味わうつもりだった。
騒然とする魔王都市のうち、軍事基地は比較的落ち着いていた。
そこを訪れた私とジェシカは、周囲からの視線を気にせず敷地内を散策する。
ククリナイフで肩を叩きながらジェシカは呟く。
「大騒ぎね」
「この世界における初の実戦だ。今後の士気にも関わるから、尚更に張り切っているのだろう」
英雄連合と全面戦争を行うことは周知の事実となっていた。
我々が包み隠さず伝えているからだ。
勝利できれば元の世界に帰る手段も見つかるかもしれない、という噂も流しておいた。
その場の思い付きだったが、軍人達はその希望に縋っている。
実際は帰還させるつもりがない。
そもそも軍人達は、疑似的な複製による召喚で呼び出している。
元の世界に送り返した場合、本来の自分達と鉢合わせすることになるだろう。
同様の出来事が大量に発生するのだから、ドッペルゲンガーの騒ぎではなかった。
そういった事情がなくとも、軍人達は貴重な戦力だ。
せっかく鍛えたのだからリリースする気はない。
死ぬまで異世界の戦争を満喫してもらおうじゃないか。