第71話 殺人カップルは衝動を抱える
私は手元に二本の缶コーヒーを召喚すると、一方をジェシカに渡しながら開封して飲む。
予想通りのチープな味だった。
確かスーパーマーケットでも常に特売されていたはずだ。
決して美味いものではないのだが、何か妙に癖になる。
一時期、依存物質が入っているのではないかと話題になっていた。
裁判沙汰にまで発展したが、結局は製造元が潔白を証明したらしい。
その年の売り上げが倍増したというエピソードも聞いている。
以来、私もファンではないものの愛飲するようになった。
安い味のコーヒーを飲みながら軍事基地を眺めていると、ジェシカが小さく笑った。
缶を開けた彼女は、通りかかる軍人に手を振りながら呟く。
「ダーリンはいつも通りね」
「君だってそうじゃないか。緊張とは無縁に見えるよ」
「緊張は無いけど期待はしているわ。最高のパーティーなんだもの」
穏やかに答えるジェシカだが、その瞳には狂気が宿っていた。
今にも破裂しそうなほどに膨れ上がった衝動が見え隠れしている。
彼女は英雄との殺し合いを心待ちにしていた。
近頃は派手な行動を控えていたから尚更だろう。
訓練中の事故で死者が出ていないことが奇跡に近いと思う。
そんな彼女の横顔を見て、私は惚れ惚れとする。
「戦う君は眩しいほどに美しい」
「もう、照れちゃうからやめて」
「率直な感想を言ったまでさ」
私がキザな言葉で応じると、ジェシカが身体を寄せて頬に手を当ててきた。
その魅惑的な唇が私の耳に囁きを届ける。
「クールなダーリンもいいけれど、ワイルドな姿も見たいわぁ」
「ふむ、考えておこう」
「そうやって焦らすのね。意地悪なんだから」
雰囲気を崩したジェシカが少し拗ねた調子で言う。
まあ本気で怒っているわけではないのは一目瞭然だ。
私は彼女の頭を撫でながら語る。
「敵は歴戦の英雄だらけだ。私が本気を出す機会もあると思うよ」
「ふふ、楽しみ。応援させてもらうわね」
「勝利の女神にそう言われたら頑張るしかないな」
私は微笑する。
ジェシカの指摘は正しい。
綿密な計画通りに動いてスマートに済ませるのは最良と言える。
しかし、面白味には欠ける。
台無しにしないための工夫は必要だが、そこばかりを気にしすぎるのは本末転倒だった。
たまには本能に従って暴れ狂うのも一興である。
私とて殺人鬼の一人だ。
理性的でない部分も発散しようと思う。




