第44話 殺人カップルは勝利を味わう
夥しい量の鮮血が迸る。
上空からでもよく分かるほどの弾け具合だ。
肉を裂いて鱗を割って大量の刃が顔を出している。
魔王はハリネズミのような惨状となっていた。
掠れた悲鳴が洩らして、何らかの術を使おうとする。
しかし、それが形を得ることはなかった。
魔王の頭が地面にぶつかって動かなくなる。
そこから血だまりが広がっていく。
内包された魔力や瘴気が蒸発し、無害なエネルギーとなって霧散する。
蘇ってくるような兆しは見られない。
完全に息絶えている。
魔王は間違いなく死んだ。
その最期を見届けた私は、顎を撫でつつ微笑する。
(効果抜群だったな。我ながら良いチョイスだった)
あの無数の刃は、もちろん私が召喚した物である。
実はすべてが同じ魔剣なのだ。
状況的に使えそうなので召喚してみた。
こういう時、臨機応変に凶器を調達できるのは素晴らしい。
まさしく召喚術師の特権だろう。
私の戦闘スタイルとも噛み合っている。
ただ切れ味の良いだけの剣なら、魔王を切り裂くことなど不可能だったろう。
特性として宿る"魔力を分解する力"が遺憾なく発揮された。
魔剣の名に恥じない能力を持っていたというわけだ。
それでも魔王が万全かつ体表越しなら通用しなかったに違いない。
体内を巡る瘴気に蝕まれて吸収されたのではないか。
弱った状態だからこそ、内部から切り刻むことができたのだ。
さすがの魔王でも、腹が破裂するだけの量を召喚されれば抵抗のしようがなかったらしい。
(たとえ効かなかったとしても、別の手段で抹殺するまでだが)
魔王の防御メカニズムは、これまでの挙動から推測していた。
このやり方で始末できると思ったが、所詮は推測である。
予想が外れていた可能性はどこまで行っても拭い切れないものだ。
たとえば体内の魔剣を一瞬で消化したり、別の場所へ転送するパターンがあった。
あれだけの怪物なのだから、他にも特殊能力を隠していたとしても不思議ではなかった。
もっとも、それらの可能性が的中したとしても、別に何も困りやしない。
他の推測と対策を打ち立てて、絶命するまで検証するだけだった。
魔王の防御能力はそもそも完璧ではない。
火傷と再生のプロセスを踏んでおり、決して無敵ではなかった。
その時点で殺害は可能だと確信していた。
魔剣が通用しなければ、ほぼ無尽蔵の魔力でひたすら攻撃を仕掛けるつもりだった。
ダメージを与えられると判明した時点で、魔王は我々の獲物に過ぎなかったのだ。
まあ、華麗なフィニッシュが不発に終わるのは嫌なので、ここで死んでくれて好都合ではある。




