第37話 殺人カップルは魔王に仕掛ける
私はコックピットに搭載された音楽プレーヤーを操作する。
機内にロックアレンジされたクラシックミュージックが流れ出した。
つまみを回して最大ボリュームにすると、それに合わせて気分が上がってくる。
ジェシカも指を鳴らして乗っていた。
リズムに合わせて口ずさんでいる。
綺麗な歌声だ。
警察から逃走する時、彼女のアカペラを聞くのが好きだった。
魔王から思念は飛んでこない。
沈黙しているらしい。
向こうからこちらの動きは見えているはずだ。
黙って監視しているのだろうか。
(ふざけた態度に呆れているのかな)
或いは怒りのあまり冷静になったのかもしれない。
どちらにしても愉快な反応だった。
これで感情的になって判断を誤ってくれれば儲けものだが、さすがにそこまで愚かではないだろう。
私は小さく笑って操縦桿を倒そうとする。
しかしまだ動かない。
魔術的なパワーでヘリの位置を固定されている。
まだ解除されていないようだった。
私は大げさに肩をすくめると、魔王にクレームを入れる。
『こちらとしては、さっさと城に着陸したいのだがね。準備が整っていないのなら待たせてもらうとも』
『…………』
魔王の唸り声が聞こえた。
数秒後、ヘリの挙動が復活する。
操縦桿の動きに合わせて前進を再開した。
ヘリはプロペラ音を響かせて魔王城に接近していく。
私は禍々しい城の外観を注視した。
漆黒の靄が滲み出て外気を浸蝕しつつある。
周囲一帯を覆い始めていた。
「ふむ」
「ダーリンも気付いた?」
「ああ、凄まじい殺気と魔力だね。視認できるほどの濃度なのか」
こちらの態度がよほど憎らしかったらしい。
あの靄に触れると、たちまち肉体が腐るはずだ。
下手な魔術より危険である。
魔王は殺気と魔力だけでそれほどの危険物を生成できるらしい。
やはり厄介な存在だ。
ジェシカの聖魔術なら払えるだろうが、迂闊に近付くのは利口ではない。
かと言って離れすぎると禁呪の連打を叩き込まれる羽目になる。
私は機体を一旦停止させた。
まだそれなりに離れた地点から高度を上げていく。
途中、魔王城から確かな視線を感じた。
やはり睨まれているようだ。
にこやかに手を振ってやると、魔王のメッセージが飛んできた。
『城の最奥に来い。そこで貴様らの息の根を止める』
『素晴らしいバイタリティだ。尊敬するよ、本当に』
私は手を打って称賛する。
堪え切れない笑みを洩らしながら、片手を掲げてみせた。
そして魔王に告げた。
『だが、我々は我々の流儀でやらせてもらう』
『――何』
私は指を鳴らす。
その瞬間、魔王城の頭上に膨大な数の筒が出現する。
豪雨のような密度で配置されたそれは、多種多様なミサイル群であった。




