第36話 殺人カップルは魔王と対話する
その後、我々はヘリで荒野の上空を移動する。
着替えと食事も済んで体力は回復した。
十分に戦えると判断して、一気に魔王城へ向かうことにしたのである。
道中、禁呪は飛んでこない。
不気味なほどに何もなかった。
きっと魔王も最終決戦に挑む覚悟ができたのだろう。
ここで余計な消耗をしてはいけないと考えているに違いない。
だから我々も素直に移動を続ける。
途中で妙なこともせず、決戦に向けて集中を高めていった。
万が一の襲撃を想定して動けるようにだけはしておく。
相手は狡猾な魔王だ。
油断を誘っておいて不意打ちをしないとも限らない。
これはスポーツマンシップに則った試合ではなかった。
ルール無用の凄惨な殺し合いである。
空の旅を続けることおよそ一時間半。
遠くに黒い山が見えてきた。
荒野の中に堂々と君臨している。
距離が近付くにつれて詳細な形状が分かってきた。
それは山ではなく城だった。
無数の茨のような物体が煉瓦が折り重なるようにして形を築いている。
周囲に比較対象となる建造物がないので正確には分からないが、ちょっとした高層ビルくらいの高さはありそうだ。
(ふむ、なかなかの佇まいだな)
操縦しながら感心していると、脳内に地鳴りのような声が響き渡る。
『――止まれ。殺戮に酔う狂人どもよ』
それはまるでテレパシーのような感覚だった。
いや、実際にそれに類する能力だろう。
この世界に念話と呼ばれる魔術があることを知っている。
私は声を無視して操縦桿を倒す。
しかし、ヘリは前進しようとしない。
プロペラを回転させたまま、上空に静止してしまった。
まだ城との距離はかなりある。
(機体が動かない。言葉に魔術的な力を乗せたのか)
おそらくヘリの故障ではない。
先ほどの念話に何らかの細工が施されていたのだろう。
言葉の端々に魔力を感じたのだ。
隣を見れば、ジェシカが真面目な顔で頷く。
私の見解は間違っていなかったようだ。
(念話ということは、こちらから話しかけることもできるはずだ)
該当する魔術は習得していないが、相手との繋がりを感じる。
意図的にキープしているのだろう。
私は心の内で念じるようにして話しかける。
『これで聞こえるかな、魔王』
『既に察しは付いていたか』
『当然だろう? このシチュエーションで話しかけてくる者なんて他にも思い付かない』
私は薄笑いを浮かべて返答する。
向こうから微かな苛立ちが伝わってきた。
どうやら魔王は私の話し方が嫌いらしい。
なんとも好都合であった。
『我が城に何の用だ』
『君を殺しに来た。オファーを断ったくらいで命を狙うような存在は始末すべきだと思わないかね』
『貴様らのような危険分子は早期に排除すべきと判断した。配下に加わらないのなら尚更だろう』
『はは、正直だね。魔王の素直な心境が聞けて嬉しいよ』




