第30話 殺人カップルは戦場を躍る
落下する最中、ジェシカが魔術を使った。
少し下に光の階段ができている。
それは地上まで真っ直ぐに続いていた。
大地を埋め尽くさんばかりの魔物達が待っている。
我々はほぼ同時に着地すると、並んで疾走する。
すぐに全身が淡い光を帯びた。
それに合わせて力が漲ってくる。
どうやらジェシカが魔術による補助を使ったらしい。
おそらくは身体強化の術だろう。
これはありがたいサポートだ。
途方もない数の怪物を相手にするのだから必須の処置であった。
隣を走るジェシカが確認の声を飛ばしてくる。
「このまま突っ込んでいいわよねっ」
「ああ、構わないとも。君に合わせるよ」
「最高だわ、ダーリン!」
そう、我々は様々な策を放棄して、シンプルな白兵戦を選択した。
はっきり言って馬鹿げている。
数十万ものモンスターを、たった二人が接近戦で殲滅しようとしているのだから。
常軌を逸した行動に違いない。
しかし、仮面を着けた瞬間に我々は決心した――してしまったのだ。
殺人鬼の本能が理性の箍を吹き飛ばした。
そうして最も過酷で狂った殺戮に身を委ねた。
(まったく、若い頃を思い出す)
無茶な行動をしている自分を客観的に捉えて、私は内心で苦笑する。
当初は効率的な戦法を考えていたが、そんなことはどうでもよくなった。
直情的に突っ込んで暴力を叩き込むことを魅力的に感じたのである。
普段はクールに振る舞ったとしても、根本的にはイカれた殺人鬼だ。
その事実を改めて突き付けられたような気がした。
(ふむ……)
私は素早く視線を巡らせる。
光の階段はちょうど魔物達の中央部に繋がっていた。
上空から見れば、軍団を左右に二分するような形だろう。
私は右手にリボルバーを持ち、左手にショットガンを召喚しようとする。
ところがコンマ数秒の思考の後、代わりにバタフライナイフを取り寄せた。
手首のスナップで収納された刃を展開して、しっかりと握り締める。
ああ、懐かしい。
この感触がよく馴染む。
バラフライナイフは私が初めて人を殺した際に使った凶器だった。
一度目の死を迎えた際も肌身離さず持っていたものである。
いつもみたいに取り繕うことなんてない。
今は仮面を着けている。
誰にも表情なんて分からないのだから。
――たまには、派手に、暴れようじゃないか。