第十章 それぞれの時間-12-
「どうかしたのか? 俺でよけりゃ、話を聞くぜ」
「話してどうこうなるもんではない」
「どうこうしたいことなのか?」
一々突っ込んでくるエザフォスに、ホロメスは小さく息を吐いた。
「明日から、このおしゃべりを聞くことになるのか」
「オヤッさんが俺を指名したんじゃねぇか。嫌なら他を当たれ。俺は別に構わねぇよ」
エザフォスが言えば、ホロメスは「いや」と言った。
「あんただから、雇うことにした」
「ッ……」
面と向かってはっきりと言われてしまえば、なぜ、という疑問はさらに膨らんだ。
「その様子じゃ、理由を訊きに来たのだろう」
「……俺は、元盗賊だ。知ってるだろうがな」
エザフォスの告白に、しかしホロメスはただ頷いた。
「だから、なんだ?」
「だから、……だから、あぁ、まあ、考えなかったのか? 商品だったり、金だったりのしんぺぇとかよ」
「しなかったさ」
短い答えが、さらに突き刺さる。
「なら、……」
「何故、仕事を受けてくれた?」
「え?」
ホロメスがじっとエザフォスを見た。
「おまえこそ、嫌なら断ればいい。何故、受けてくれたのだ? こんな年寄りの、しかも不愛想の面倒を看たくはないだろう」
「そんなこと、思っちゃいねぇよ」
自分ばかりが、なぜだと思っていた。
が、それは、ホロメスも同じだった。
なぜ、こんな会ったばかりの年寄りの仕事を受けたのか、知りたいと思っていた。
エザフォスが、息を吐く。
「オヤッさんが、似てるからかもな」
「似ている?」
「ああ、俺の親父だ」
「親父さんは?」
「死んだよ。家族全員、紛争に巻き込まれて、死んだ」
「そうか、それは気の毒に」
ぶっきら棒だったが、そこには哀悼の意があった。
エザフォスも、「ありがとよ」と応える。
「話してもいいか?」
エザフォスが言えば、ホロメスは軽く頷く。骨ばった無骨な指が椅子を示し、エザフォスはそれに従った。
座り、店の中を見回す。