第十章 それぞれの時間-13-
「懐かしいぜ、ほんと」
「武器屋だったのか?」
「ああ。まあ、うちの親父は、商人だったがな。オヤッさんみたいに武器は打てなかった。なりたかったみてぇだがよ、修行中に逃げ出したんだと」
エザフォスが苦笑すれば、ホロメスも僅かに口の先を上げた。
「俺の弟子入りした師匠も厳しかった。何十人も入っては辞めていったよ。今こうして残ってるのは、俺だけだ」
「そいつはすげぇな。俺の親父にももっと忍耐ってぇのがあれば、武器も造れてたんだろうけどな」
「その時の忍耐を取り、その先の希望を選択しないのは、悲しいこともある。現に、おまえの親父さんは、そこから逃げ出したから、今おまえがここにいるのだろう」
ホロメスの言葉に、ハッとさせられた。
「ああ、……ああ、そうだな。親父は、逃げ出した後に、お袋と出会った。小さな商店で店番をしているきれぇな女に一目惚れしたって、ガキの前でも惚気てたぜ。そこから、親父の猛アタックよ。毎日花を届けるわ、手紙は出すわ、お袋も困ったみてぇだぜ、そん時は」
ホロメスがようやく笑った。
「情熱的な親父さんじゃないか」
「ああ、ほんとそのおかげで俺がいるんだがな。弟や妹もできた。三つ下だと、五つ下だ。家族五人、いつも笑いが絶えなくってな。親父は忍耐がなかったが、商才はあったようで、武器屋を開いた。元々武器が好きだったんだ。毎日膝の上で、この武器はどうだとか、この武器の歴史はなぁ、とか聞かされたもんだぜ」
「それであの知識か」
ホロメスの合の手に、エザフォスは頷く。
「好きだったよ、親父の話。話し方、話てる時の顔、手、……好きだった」
ホロメスが小さく頷く。エザフォスは、なぜか安堵した。
「ま、それも終わっちまった。俺の故郷で紛争が起こってな、武器屋は真っ先に狙われた。そりゃそうだよな。俺も敵軍だったらそうするわ。幼い弟と妹も、それを守るようにお袋も……親父は俺の手を引いて逃げた。今でも覚えているよ、手の感覚をな。そして、ぶった切られた、親父の背中を。俺も腹を貫かれて、意識が朦朧とした。だが、案外憶えてるんだよな。いてぇどころの話じゃない……いっそはやく死にてぇと思った」
ホロメスがまた頷く。
「そこに現れた救世主が、盗賊だったってわけだ。紛争の後、家や死骸を物色している遠きに、俺を拾った。まあ、第二の父親みてぇな人だな。盗みはしても、無駄な殺しはしねぇ。盗賊にしては、変わりもんだったと思うよ」
「おまえも十分変わりもんだけどな」
エザフォスは笑った。




