第十章 それぞれの時間-11-
荷卸しがすべて終わった頃、就業の鐘が鳴った。
この鐘を聞いて、仕事を終える時が自分にくるとは、エザフォスも思っていなかった。
「オヤッさん。終わったぞ」
「ああ」
中で金勘定をしていたホロメスが、足を引き摺りながら出てきた。
「あぁ、いいっていいって。夜も近づいてきたし、ちゃんと戸締りしろよ」
「分かっておる」
足を撫でながら、ホロメスは答えた。
エザフォスがはじめてここに訪れた日の夕方、ホロメスは荷卸しの台から落ちて怪我をしてしまったのだ。
この武器屋スミスは、ホロメス一人で営んでいる。足を悪くしてしまえば、何かと大変なので、急遽人を雇うことになったのだ。そして、白羽の矢が立ったのが、エザフォスだった。
「じゃあ、明日もまたくっからな」
「ああ、頼む」
口数が少ないホロメスだったが、エザフォスはそこも気に入っていた。
仕事を、帰宅する。帰る場所は、宿屋だが、それでもこうして帰る場所があることは、とても有り難かった。
エザフォスは、昨日のことを思い出す。
実は、昨日も武器屋スミスに来ていたのだ。
仕事を受けたものの、なぜ自分だったのかをホロメスに直接訊きたかった。
ルイーズにも言ったが、盗賊だった自分を雇うなど、どうかしている。恐らくその情報は先方に伝わっているはずなのに、だ。
エザフォスは、そういったことを気にしてしまう。
小さな路地を抜け、広場の先。そこが、明日からの勤務先となる。ホロメスは、やはり店前で剣を打っていた。
が、着いて最初に言われたのは、「明日からだ」だった。
もう雇うことはホロメスの中で揺るぎのない決定事項だった。仕事の依頼を役所に提示する時点で、決定しているのだが、それでも不思議だった。
「ああ、知ってる。今日は、まだ客だ」
「斧は打ち直したはずだ」
立ち上がろうとしたホロメスは、その瞬間よろけた。
「っ……」
「おい! 大丈夫か? 怪我、したのか……?」
心配するエザフォスに、ホロメスは苦々しい顔をして、「歳は取りたくないもんだ」と言った。
肩を貸し、店の中にある椅子に座らせる。
筋張った体が、怪我をしたことで年寄りのように丸くなってしまっていた。
いや、もしかすると、それだけではないのかもしれない。