第九章 それぞれの仕事-19-
周りをすべて闇の蔦に囲まれ、まるで鳥籠の中にいるような気分になった。
しかも、最悪の展開だ。
蔦が、家の中で息を潜めていた住人達までも取り込み始めたのだ。取り込まれた者は、闇の花となる。花を綺麗と思わないことがあるのか、とカズホは思う。ボコボコと咲くそれらが、負の感情そのものだと思うと、嫌気が差し、悲しくまでなってくる。
「やっ、やめろ……!」
カズホの悲鳴は聞こえない。
ただ、『モット、モット』という無機質な声が辺りに響き渡る。
カズホは、自分の呼吸が浅くなっていくのを感じていた。
「俺一人じゃ……」
『無理ではない。分かっているはずだ。どうすれば、被害が最小限になるかを』
「ああ。でも、それは……」
カズホは青年を見る。
一際大きな闇の花を咲かせた青年の心。逆に言えば、それだけの期待と希望が彼にはあったのだろう。
そして、青年は、今この闇の植物の本体だ。
(やっぱ無理だ。あいつを犠牲になんて……)
『時に非情な選択も必要だ。すべてを救おうなど、傲慢。おまえにも、私にもできないことがある。それは決して悪いことではない。何がそれほどカズホを躊躇させる?』
「何が?」
ぼこりとまた花が咲く。
カズホは、下唇を噛んだ。地が滲みそうなほど、強く。
なぜこれほどまでに、自分は少し話したくらいの青年に肩入れするのだ。
彼が落ち込んでいたからか。彼が可哀想だからか。
確かに、励ましたいと思った。共感をした。
(俺だって、上手くいかなかったことの方が多かったさ)
会社に入った頃、やっと一人前になれたと思った。
もっと自由になれると思っていた。
バリバリ仕事をして、たくさんお金を得て、人から感謝される。すぐにそうなれると思っていた。
でも、現実は違った。
たくさん怒られ、迷惑をかけた。赤井にも叱られたことは数多くある。気の合わない上司には、『役立たずだな』とぼそりと呟かれたこともあった。期限を間違えて、取引先から笑顔で『もう結構です。そちらとはもう今後は仕事を致しませんから』と言われ、大人になって泣くこともあるのかと、帰り道人知れず涙したこともある。
もう無理だ。やっていけない。会社に行くのが怖い。期待を裏切ってしまうことが不安だ。嫌われたくない。なんであいつばっかり良い思いをしているのだろう。
(俺ばっかり……あった、そういう時が……)
いや、それは今だって同じだ。




