第九章 それぞれの仕事-6-
前夜に激しい戦闘したとは思えないほどの変わらない穏やかな、そしてカズホの部屋だけ途轍もなく賑やかな朝となる。
『ぐぬぬっ、そのパンという食べ物……食ってみたい……でも、食えない、だとぉ……ぐぬぬっ』
パンの籠を穴が開くのではないかというほどじぃと見詰めているアベレスを見て、カズホは思い出す。
「あっ、ルベルが言ってたけど、実体化すれば食べられるらしいぞ?」
『あ……そうか……実体化すればいいではなか、俺様!』
(本当に気付いてなかったんだ……)
カズホの助け舟に、アベレスは金色の瞳をキラキラと輝かせ、小さいままのその姿に、質量を持たせた。
それから、前足でちょんちょんとパンに触れる。
『おぉ、触れる! これなら食べられるぞ!』
意外と気遣いするらしいアベレスは、カズホ達以外の人前に出る時は半実体化になり、戦闘時は完全な実体化と使い分けているようだ。が、無意識にそれをしているアベレス本人は、言われるまで半実体化になっていることに気付かなかったのだろう。
嬉しそうにパンに飛びつくアベレスに、カズホは苦笑する。
(このミニサイズだから、まだ可愛いんだろうけど、アベレス本来の姿だったら、獲物を狙うただの獰猛なライオンだよな……)
カズホはそう想像して、一人苦笑を引き攣らせた。
『うんまい! このパンっていう物は、美味しいのだな。俺様は気に入った!』
小鳥姿のタクシィは呆れ顔で、ミーシャの肩に留まっていた。
『食い意地だけは立派な』
『あん? 貴様を食ってやろうか?』
『やれるものならば。だが、その前に、我にもそれを寄越せ』
『結局、貴様も食いたいのではないか!』
『美味いと目の前で言われて、気にならないわけがないだろう?』
タクシィに上から狙われ、パンを銜えたアベレスは逃げる。
(普通は、魚銜える気がする)
カズホは、豆スープを飲みながら、暢気にそれを眺めていた。
『やめろ! 上からなんて卑怯だぞ! これは俺様のだ!』
『一人占めは許さん』
「こらぁ! アベレス! タクシィ! いい加減にしなさい! 大人しく待っててよ!」
これがあるから、昨夜に引き続き、朝食もカズホの部屋で取ったのだ。
『わぁん! ミーシャ! 小鳥が俺様の鬣を突っついてくる!』
昨日まで言い合いをしていたミーシャを、今ではアベレスの中で助けを求めるお姉さん的な存在になっているのかもしれない。
『誰が小鳥だ! このこのこのこのッ』




