第七章 穴-7-
エザフォスが、再び改まる。
「話が脱線しちまったが、仲間殺しってぇのは、国に対して何か良からぬことを目論んでいるらしい傭兵を始末する傭兵のことだ。傭兵は集まれば、国直属の兵士よりも力のある集団になる。それを阻止するための工作員みてぇなもんだな」
確かに、第一線で幻獣とも戦っている傭兵の方が、役所の前で騒ぐ訪問者を監視することが常の兵士よりも実力がある。職として、安全を確保するために傭兵は常に必要だが、政治的な面で見れば、リスクも高いのだろう。
「俺も若かったから、地位も名誉も、金もほしかった。国からの仕事となれば、箔も付くと思った。だが、現実は違った。歳は二十ちょっとの頃か。国を変えたいと動く同年代の連中を手にかけた。指の数じゃたりないほどにな。気付けば、同じ傭兵達から爪弾きにされ、独りになっていた」
「家族、は……?」
昨日、仲間の躯を見回していた時、エザフォスは確か『俺の家族』と呟いた。
エザフォスは苦笑した。
「いねぇよ。紛争でみんな逝っちまった。傭兵になるまでも盗みやら何やらしていたのさ。元々手癖は悪い方だったんだろうよ。バレたことがねぇ。何かくすねるもんが言ってくれ。バレずに、こうさっとな」
「これからはしないでよ」
「冗談だって、ミーシャ」
力なく笑ったエザフォスの顔は、優しかった。
「守るもんねぇから、何でもやれてきたのはある。貪欲になれた。が、独りになっちゃどうしようねぇってことも、仲間殺しと言われて気付いたのさ。だから、俺は傭兵を辞めて、盗賊になった。みんな同じような境遇だったんだ。仲間に追われたもん、家族を牛なかったもん……寄せ集めが、俺の家族になった。おまえらが来るまではな」
「そう、だったんだ」
エザフォスの居場所を、カズホは知らない内に奪ったことになる。申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「だから、それはいいんだって。気にするなって言ってもしょうがねぇだろうが、いつかはこうなると、俺達も覚悟していた。人様のもんを強奪しといて、永らえることはできねぇよ。まあ、俺の過去は置いといて、だ」
エザフォス自ら、しんみりする流れを断ち切る。
「多分だが、ルイーズは俺のことを知ってたんじゃねぇかと思う。で、カズホはこんな性格だ。ミーシャが役所に連れてきた時、ルイーズは、こいつなら俺を生かして連れ帰るとでも考えたんじゃねぇかな。そうすれば、俺はカズホにつく、ともさ。なら、俺が一日も拘留されずに外に放り出されたのも頷ける。魔法が使える奴が二人と、まあそこそこ強くて代わりの利く傭兵なら、調査するにも申し分ない。俺が魔法使いになるとまでは予想していなかっただろうか、それこそ奴にとっては大歓迎ってとこだろうさ」
エザフォスの予想は、カズホもミーシャも納得がいった。




