第六章 土獅子
夜の街は静かだ。そこが、ザフィリは好きだった。
「夜はいいね、エフィ。生者を黙らせる」
ザフィリの言葉に応答するように、右手首が疼いた。
彼が立つ場所は、サリアの役所の屋根だ。ここから、街が一望できる。下では、松明の火が右往左往していた。
「無駄の多い連中だこと」
呆れるように言ったザフィリの言葉は、闇夜に溶けた。
誰からも答えがなく、しかし、それが心地良い。
つい昨日までそう思っていた。
「彼はあの中にいないようだね。火の気配はしない。ついでに、風も」
今回の夜の警備に、魔法使いはいないようだ。
少し期待していたのだが、昼間の仕事が初だったようだから、無理もない。しばらくすれば、嫌でも駆り出されるだろう。
幻獣は、増えている。増え続けているのだ。
人の闇が膨らめば膨らむほど、幻獣はそれを喰らうために生まれてくる。
(僕も、喰らわれた一人か)
だが、それは自分の意志だ。決して屈したわけではなかった。
奪われたから欠けてしまったものを欲するのは、当然だ。
そう、つい昨日まで思っていた。
ザフィリの調子は、少しだけ狂っていた。
「おや? 結構強い奴が来てくれたね」
感慨に耽る余裕などない。
松明の集う場所があった。西の街道からの出入口だ。そこに、幻獣がいる。
「行ってみようか? エフィ」
夜は始まったばかりだ。
ザフィリはエフィアルティス・フィズィを顕現させ、その中に入る。
「夜を、楽しもう」
まるで青い宝石のような瞳を細めたザフィリは、エフィアルティスに抱かれ、サリアに現れた幻獣の元へ向かった。