第六章 土獅子-2-
血の臭いが辺りに充満する。
だが、引くわけにはいかない。それぞれ想いは違うが、集った兵士と傭兵は皆そう思っていた。
「ここを突破されれば、幻獣が街に踏み入ってしまうぞ!」
「分かっている!」
兵士の言葉に、傭兵が叫んで答えた。
各々剣や槍を構え、後方には弓矢も控えていた。
が、前方から向かってくる相手は、全く怯まない。
「あれは獅子か?」
ゆっくりとした足取りで、街に向かってくる影は、獅子の姿をしていた。
やられた者達は、獅子の繰り出した棘のようなものに突き刺されていた。爪とも違う。地面から突き出るそれは、兵士や傭兵の武器では止められなかった。
「ぐわあぁ!」
「ぎゃあぁ……」
一人、また一人と周りに集う者達が息絶える。
じりじりと後退する警備の者達の中で、一人前に出る者がいた。髭を蓄えた大柄なその男は、不格好ながらも獅子の攻撃を避けていた。
「俺がやる。大切なもんがある奴は下がってろ」
斧を片手に携えた男は、慄き腰を抜かしている兵士を引っ張って、後方へと放り投げた。
「ぎゃっ!」
「悪いな。だが、そこなら安全だ」
再び、地が突起し、男を狙う。
だが、男は間一髪で避けたかと思えば、斧でそれをかち割った。
「せっかく少しの間だけ延びた命なんだ。今死ぬわけにはいかないんだよ! あいつらに恩を返すまではな!」
地を蹴った男は、獅子目がけて走った。
連続して地が揺れるが、それに構わず全速力で駆け、斧を振り上げる。
獅子は、飛び退き、男の斧をかわした。
「ちッ……意外とすばしっこいな」
表情を険しくする無骨な男に、獅子は鬣を振り翳した。
まるで、挑発するようにも見えた。
「おまえを倒すくらいの力がなきゃ、結局あいつらの足手纏いになりそうだからな。良い訓練になるぜ!」
男が再度斧を構えた時だった。
周りの時が――止まった。
動けるのは男と、獅子のみ。
男は、仰天した。
「なっ、何だ⁉ 何が起こって……」
『貴様、力が欲しいのか?』
「は?」
急に何かから語りかけられ、男は困惑した。
が、周りは話すどころか、動きさえしない。
誰が自分に語りかけているのかと見回していると、再び声がした。




