第十三章 不安と絆-4-
ミーシャの震える声に、カズホはようやく目を開けた。
そこには、泣き出しそうな彼女の顔があった。
(俺は、どうしていつも大切な人にこんな顔をさせてしまうんだろう?)
ミーシャは、何かに耐えるように強く握った拳を、テーブルの上に乗せていた。
「あたし、カズホの役に立ってない? 邪魔なの?」
「そんなことないさ」
やっと返したそれは、掠れていた。
「いつも一緒にいたいって思ってるのは、あたしだけなの?」
「そんなことない!」
そう応えて、カズホは「あ」と声にした。
ミーシャがさらに拳を強く握った。
「だったら! 独りで突っ走って、あたしを不安にさせないでよ! あたしを独りにしないでよ!」
「ミーシャ……」
「いっつもいっつも……」
「ミッ、ミーシャ……⁉」
ついにポロポロと涙を零し始めた彼女に、カズホは慌てる。でも、それが綺麗だとも思った。
「本当に、今日は不安だったんだから……もしかしたら、あの人を選ぶんじゃないかって……でも、ここから離れるって聞いて、安心して……また二人で旅ができるって思って……そしたら、今度はあたしはいらないって」
「そんなこと言ってないだろ⁉ いらないなんて、思ったことないさ!」
オロオロしながら、カズホは思う。
(俺は何言い訳みたいなこと……?)
と、背後に気配がした。
「なんだ? ミーシャを泣かせちまったのか? 親も見てる前でよ」
「ちっ、違う! って、エザフォス……!」
振り返れば、大柄なエザフォスが、顔を恐くして立っていた。
「おまえなぁ、鈍感過ぎるぞ」
「エザフォスが物音立てずに近付いてくるから……」
「そこじゃねぇよ」
言って、エザフォスは、カズホの頭を叩いた。
「ッて!」
睨むようにエザフォスを見れば、彼はもう階段の方へ向かっていた。
「次どうすんのか決まったら、明日教えてくれや。俺は寝る」
「エザフォス、ワインが入ったが飲むかい?」
アイマンがそこでスープをミーシャとカズホの前に置き、嬉々として言った。
エザフォスは「おっ、いいねぇ!」と笑った。
「ちぃっと飲んで寝るかな」
「持っていくよ。上で待っててくれ」
アイマンはそう言ってまた台所へ戻り、エザフォスは「あいよ」とカズホを少し見て、二階へ上がった。
その後、アイマンはワインとグラスを二つ持って、エザフォスを負った。
その間、カズホとミーシャは無言だった。
おしゃべりな猿はあれから何も言わず、タクシィもずっと黙ったままだ。




