第十三章 不安と絆-3-
ミーシャはそこで微かに言い淀み、少し目を伏せたが、また顔を上げた。
「あたしは、お父さんを捜したいの。タクシィが教えてくれた。あの山の向こうに、もしかしたら、お父さんがいるかもしれないって。だから、……」
ミーシャは、口を閉じた。
アイマンが、二人分の温かなスープを持って、立っていた。表情は、とても穏やかだった。
「彼は、……スィエラは生きているんだね?」
「ええ」
ミーシャは、頷いた。
彼女はやはりもう決意している。目の前に温もりがあろうとも、旅立つ決断を下していた。
アイマンは、その穏やかな表情に、寂しさと喜びを隠しているような気がした。
カズホは、静かに目を閉じた。
「君は、いつも真っ直ぐだな」
それを声に出せば、自分が情けなくなった。
いつも何かに迷い、不安を抱えて、不安に振り回されて、決意と覚悟が鈍る。
カズホにとって、ミーシャは常に前を見ている光のような存在だった。
「俺とは大違いだ」
「何が違うの?」
ミーシャの声は、苛立ちを帯びていた。
カズホは目を開けることが怖かった。
「ねぇ、何が違うのよ? カズホだって、いつも真っ直ぐじゃない」
「俺は、……無理だよ。ミーシャのように、決められない」
「嘘! なんでそういつも自分を卑下すんの? 違うじゃない、カズホはいつもあたしを引っ張ってくれてる」
「は? それは君の方だろ? 先陣を切るのはいつも君だ。俺はついていくだけ」
内に秘めていた情けなさが、言葉になる度に怒りへと変わる。それは、自分に対してなのか、ぶつかってくるミーシャに対してなのか分からない。
しかし、気付けば、表に出ていた。
「俺は、今まで君に甘えていた。自分の知らない場所で知らないことばかりで……自分から何かをすることはなかった」
「当り前じゃない。知らないことなんだから。知ってる人が教えるのは当然よ。カズホ、何がそんなに怖いの? 何をそんなに怯えてるのよ?」
怯えている――独りになることを。
「ミーシャは、ここにいないと」
「どうしてよ? さっきも言ったでしょ? あたしは、お父さんを捜したいの。それに……」
ミーシャがぐっと押し黙った。が、自分を見ないカズホに、また口を開く。
「ねぇ、一緒に連れてってくれないの?」
「…………俺は」
「あたしは、カズホと一緒に行きたい」




