第十三章 不安と絆-2-
「カズホ?」
ミーシャが心配そうにカズホを見た。
「疲れてるでしょ? 休もう」
優しさが身に染みる。ミーシャの言葉で、疲れた心が癒される。
「いや、ちょっと考え事をしてただけだ」
「考え事?」
ミーシャが繰り返した。
いつもの席へ、カズホは移動した、ミーシャが後に続く。
カズホが座れば、ミーシャが目の前の席に腰を下ろす。
それに、カズホは苦笑した。
「ほんと、どうしたの?」
自嘲気味なカズホの笑みに、ミーシャは首を傾げていた。
独りになることが、こわい。それが、カズホの本心だった。
「なあ、ミーシャ」
だが、決断しなければならない。
この時間を大切に思えば思うほど、カズホはそれを強く感じた。
ミーシャが不安そうに、しかしどこか期待を込めたような目で、こちらを見ていた。
「俺は、そろそろ違う場所へ行ってみようと思ってる」
「え……?」
ミーシャの黒い瞳が、一瞬揺れた。
アイマンが、奥の台所へ消えていくのを横目に見た。彼も聞こえているはずだ。そして、不安に思っているだろう。
娘が再びここを去ってしまうことを――
しかし、カズホはそれを避けたかった。
「ミーシャ、君はここに残って……」
「東へ行ってみましょう」
「へ?」
まさか、彼女の方から行き先を切り出すとは思わなかったカズホは、ひと時唖然とした。
「エザフォスと出会った山があるでしょ? あの向こう側。あたしも東はよく知らないけど、行ってみる価値は……」
「ちょっ、ちょっと待った! ミーシャも、ついてくるのか?」
「なによ? その残念そうな言い方」
「いっ、いや! そんなことないさ! 寧ろ、嬉しいというか……いやいやっ、でもさ……!」
思わず、本心が言葉に出た。が、カズホは慌ててそれを引っ込める。
「これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない」
「迷惑? どういう意味?」
「どういう意味って……」
さっきまでの不安な顔はどこへ行ったのだろう。
ミーシャの表情は、何かをすでに決心していた。
彼女はいつだってそうだ。カズホが悩み、決断し切れない時も、年下の彼女は瞬時に物事を決める。覚悟を持つ。
カズホは、それが羨ましく思った。
「カズホ、何か勘違いしてない? あたしは、別にあなたの後ろをただくっついて行きたいわけじゃない。あたしには、あたしの目的があるの」
「目的?」
今度は、カズホが訊く番だった。




