第十二章 新たな一歩-22-
「ちょっ……褒めてくれるのは嬉しいが、今は……」
『ぼくが何属性か、まだお伝えしていませんでしたね。僕は、光なのですよ』
「……は?」
『その反応はちょっと傷つきます……』
唖然としたカズホに、ラオ・タオの金色の目に、愁いが浮かんだ。
「すまん、いや……ほんとに?」
『本当です。だから、こういったこともできるんです』
大猿の姿はあっという間に光に包まれる。それに当てられた紫の触手達は一瞬で吹き飛んだ。
「すげぇ……」
ラオ・タオは、ただのおしゃべり猿ではなかった。それどころか、かなり力のある光属性の幻獣だ。
『ぼくが、あなたの剣に力を注ぎます。そうすれば、あの球体を破壊できるはずです』
「ありがと、ラオ」
カズホの言葉に、ラオ・タオが目を丸くする。が、何も言わずに頷いた。
「今度こそ、助ける。アリキ、待ってろ」
剣術が使えるわけもなく、構えはかなり不格好だ。しかし、戦いに慣れてきた体は、刃をどこへ向ければいいのか瞬間的に動く。人間の慣れとは素晴らしく、恐ろしいものだとカズホは思う。
ついこの間まで、剣どころか、武器など持ったことはなかった。マウスを握っていた手は、今、光輝く剣を握っている。
「どりゃぁ!」
カズホの怒涛の攻撃に、ペリオズリモス・ケレイスは慄いているようだった。さっきよりも触手は素早く彼らを狙ってくる。が、それらは何も効果なく終わった。
「アリキを返せ」
紫の球体の前で、カズホは言った。
そして、光の剣を大きく振り上げた。
『私がどうなってもいいの?』
不意にアリキの声がした。
カズホの動きが鈍った。
これは、彼女の本当の声か。それとも――
紫の触手達がカズホの周りに出現する。
『ぼくの声を信じてください!』
ラオ・タオが叫んだ。
カズホは、止めていた手を振り下ろす。
「必ず助ける!」
そう、叫んだ。
光の剣が、紫の闇を切り裂く。金切り声のような、耳障りな音が空間に広がった。
『ペリオズリモス・ケレイス、あなたの負けです』
『ラオ・タオ……なかまごろしの、うらぎりものが……』
光が強まり、紫の雫が弾け飛ぶ。
カズホの体が、夜の街に放り出された。
そして、アリキも。
次の瞬間、カズホが感じたのは、緑色の風と、柔らかな羽毛の背中だった。
 




