第十二章 新たな一歩-15-
カズホは、宿屋に帰ってからずっと胸騒ぎがしていた。
(なんだ? 何かが……)
それは的中した。
突如、街の中心部に幻獣の気配がしたのだ。
それが、アリキと別れた場所の近くだということも、カズホには感じ取れていた。
「まさか……?」
カズホが宿屋を飛び出そうとすれば、ミーシャが立ち塞がった。
「カズホの、知ってる人?」
「え?」
慌てるカズホとは反対に、ミーシャは冷静に、静かな声音だった。
「あたしね、今日帰り際に見ちゃったの。カズホが女の人と話しながら帰ってるとこ。最後、女の人が泣きそうだったのも……」
「っ……」
別に見られて困ることはしていない、つもりだった。
だが、胸のざわつきは先ほどよりも大きく、頭の中が混乱していた。
自分の選択は間違っていなかった。それだけは確信しているのに、どうして罪悪感が渦巻くのだろう。それが、鼓膜の奥で耳障りな音を立てている。
カズホの横に、エザフォスが並んだ。
「痴話喧嘩は後だ」
それはカズホにとって助け舟であり、現実への厳しい船出のように思えた。
いつにも増して、三人は厳しい表情で夜の街へと飛び出した。
駆けつけた場所には、すでに何人かの傭兵と兵士がいた。
が、彼らはすでに疲弊していた。
「バウルの時と同じ……」
紫の蔦のようなものが、辺りを蹂躙していた。
「また植物系?」
ミーシャが嫌悪感を含んだ表情で言った。
うねうねと蠢くそれらは、何かを探しているようでもある。
「こっ、こっちに来るなぁ……!」
「やめてくれぇ!」
悲鳴を上げ、他の者達が蔦に絡め取られていく。その瞬間、それは彼らの生命力を吸い取った。
「ぐぎゃぁ!」
「たっ、……たすけ……」
ぼとりと落とされた彼らの体は、冷たくなっていた。
「ッ……ひどい」
ミーシャは、視線を反らした。
が、カズホは目を見開き、硬直した。
(俺のせいで……)
あの中央にいる人物は、もう分かっている。




