第十二章 新たな一歩-4-
エザフォスは、慣れた手つきで武器屋スミスを開店させる。
新商品に値札を付け、売れ残っている品は下げて、店主のホロメスに任せる。特売にするか、解体し素材として他に売却することもある。
以前は、頑固なホロメスが大切な武器達を特売にすることはほぼなかった。が、エザフォスが金のない傭兵のために安く売れば彼らが助かると言えば、意外にも頑固親父は雇われ従業員に従った。
今日もある程度品の入れ替えをした後、エザフォスは奥にいるホロメスに言う。
「オヤッさん、俺はちょっと役所に行ってくら」
「ああ」
また新しくホロメスが作った武器を兵士達が購入し、それを納品しに行くのだ。
サリアの兵士や傭兵の武器は、ほぼホロメスが作り、メンテナンスをしている。武器屋スミスは、この街の平穏を守る縁の下の力持ちでもあるのだ。
エザフォスは店主の打った剣と斧を大切に担ぎ、役所へと向かう。
平穏な昼間だ。自分にもまさかこういった時間が再び訪れるとは、エザフォスは夢にも思わなかった。
(一生戦いの中で、誰の役にも立たずに死んでいくと思っていたのによ)
横を駆けていく子ども達をエザフォスは見やる。
(あんな時期が俺にもあったんだよな)
遠い昔のようだ。
(……って、じいさんか俺は)
時間の感覚が人と違う幻獣達と共にいると、妙な感じになってしまう。
この街に来て、差ほど時が経っていないというのに、かなりの時間をここで過ごしたような、しかし束の間のような感覚もする。
それだけ多くのことが、ここであり過ぎたということなのだろう。
目の前に、目的の場所が見えてくる。
(カズホと出会ったことも、大きいか)
エザフォスは、まさに巨大な建物を見上げた。
(ついでに、働きっぷりも見てくか)
そう思い、役所に踏み入れたエザフォスだったが、すぐに柱に隠れることとなった。
なぜなら、カズホが見知らぬ女と仲良く、まさに頬が触れるのではないかというほど近づいて話をしていたからだ。
(えっ? はっ? あいつ、浮気か?)




