第十二章 新たな一歩
それは、彼の方からで、若干面を食らってしまった。
「なんでそんなに笑っていられるんだよ?」
はじめて彼を――ディノスを見かけた回廊で、ミーシャは彼と対峙していた。
少しはやめに出勤して、訓練内容の準備をする合間に、ディノスにどう話しかけようか考えるつもりだった。
が、ディノスの方が、先に訓練所にいた。
そして、あの問いだ。彼もまた、ずっと疑問に思っていたのだろう。ミーシャの振る舞いが、自分の中で腑に落ちなかったに違いない。
二人きりで話したかったのは確かだが、急過ぎて、ミーシャは言葉にできなかった。
ディノスが苛立つように言う。
「割り切った、といかという訳の分からない言い分は聞かない」
「訳の分からないって……」
「だってそうだろ? ヴィクトル先生から聞いたと思うけど、僕の両親は……幻獣に殺された。でも、僕の家系は代々この、ミスティコ・ピゴラビタの火を使う。自分の大切な人達を奪った者の仲間の力を使うなんて……」
「でも、君は図書室でも使っていたじゃない」
ミーシャがやっとそう言えば、ディノスも「それは」と言葉を濁す。
「なんか、その癖みたいなやつで……ここ、訓練時間を過ぎると、カンテラも貸してくれないから……」
夜は恐ろしい時間帯だから、訓練生を居残りはさせない。それもあり、火の元はしっかり管理されている。
それでも、彼は自らの力である魔法を使ってまで、読みたい本を読んでいた。心底嫌っているはずの魔法を、いとも簡単に生み出し消していた。それは、本当に癖でもあるのだろう。使いこなせるのは、どこかで頼っている心の表れでもあった。
「あたしも、タクシィを……あっ、あたしの幻獣のことね。タクシィ・アエトスって言う、風属性の幻獣よ。あたしは、あたしの中にいるタクシィを倒してやるつもりで、傭兵になったの」
「え?」
さっきまでどう切り出そうか迷っていたミーシャだったが、一度声に出すと、それは確かに言葉となった。
「タクシィが、あたしの風になったのは、十一歳の頃。六年前になるかしら……あたしも、家系が風使いなんだ」
ミーシャが言えば、ディノスは「知ってる」と答えた。




