第十一章 大切な想い-10-
タクシィは、それを察した。
『助けてくれた者がいたのだろう。我は解放された後だったので、はっきりとは見えなかったが……ハオスも、だから、おまえの元へは来ていないのだ』
一体誰が、父を助けたのだろうか。
今度はその疑問が脳裏に浮かぶ、
が、生きていることは確かのようだ。
「あたしが傭兵になって、旅に出た目的、知ってるでしょ?」
『ああ。我を倒すためだな』
その目的は、今殆ど薄れている。
哀しみは、まだ完全に癒えてはいない。小さな棘となり、ミーシャの奥でじくじくと疼く。思い出せば、そこから流れ出た血が、涙となって溢れそうになる。
でも、癒えつつあることも事実だ。
それは、異世界から落ちてきたカズホのおかげだった。
正気、最初は嘘か、彼の夢なのかと思っていた。が、それは彼の姿を傍で見ている間に、真のことなのだと確信せざるを得なかった。
ミーシャの目的は、カズホを元の世界へ帰してあげることと変わっていった。
人を信頼することを、また当たり前に思えるようになっていた。
だから、今タクシィとこうして話ができている。信頼し、受け入れることができているから、今がある。
父に、そのことを伝えたい。会って、見捨てられたと思って悲しんだことも、その後に起こった出来事も、彼のことも――
「伝えなくっちゃ、お父さんに」
傭兵をしていたら、必ず会える。
父は言ったのだから。
『戦うことが、体に染みついている』
父は必ずどこかの夜の警護に赴いているだう。今でも、責任を独りで負っているのだろう。
(今度はあたしも一緒に戦える。ううん、あたし達が、それに……)
次の世代の傭兵達が、新たな信念の元に戦うのだ。
ミーシャには、まだこの街でやることがある。
「お父さんのことを話してくれて、ありがとう、タクシィ」
『遅くなってすまない、ミーシャ。もっとはやくに話すべきだったのだ。そうすれば……』
「ううん」
耳を塞いでいたのは自分だ。
悲しみに甘えて、歩み出そうとしなかった。そうしているつもりで、実は幼い頃から変わっていなかった。守られていたのに、気付いていなかった。
きっと、そこに至るまで何かがある。
自分も、仲間も、そうだ。
カズホも、新人傭兵の苦しみを、また新しい力へと変えていた。
何かキッカケがあれば、違うのだろうと思う。
ミーシャは訓練所にいる彼のことを思い浮かべた。
(明日、話してみよう)
タクシィは、また新たに踏み出す逞しい宿主の少女へ、静かに伝えた。
『スィエラは、娘のことを一日たりとて忘れたことはなかった。そして、我を解放する際に、何度もミーシャを頼むと言っていた』
流れ落ちる雫に、ミーシャが気付いたのは、しばらく経ってからだった。
(必ずまた会おうね、お父さん)
ミーシャは、父と会うために、新しい一歩を踏み出すことを誓ったのだった。




