第十一章 大切な想い-9-
タクシィも、本心はそうだった。スィエラが好きだった。人間離れした強さを持ちながらも、不器用な父親の優しさを抱くスィエラが、気付けば今までの宿主の中で最も信頼する存在となっていた。
狭間の時を生きる者が、他者に深く関わるなど滑稽だと、タクシィは思っていたのに、今ではそれが当たり前となっている。人間と長くい過ぎたのかもしれない。だが、今はそれが心地良く、失いたくないと思う己も悪くないと感じる。
『我は、スィエラの意思を無駄にしたくなった。おまえを見つけ、スィエラとまた出会わせたかった。いや、それは今でも変わらぬ』
ミーシャは、首を横に振った。
希望を持てば持つほど、真実が残酷だった時が怖い。
聞く覚悟をしたのに、耳を塞ぎたくなった。幼い頃の自分に戻ったような、そんな心細さを感じた。
『ミーシャ、いいか? 父親は生きている。これが真実だ。ハオスがおまえの元へ来ないのも、それが何よりの証拠』
タクシィの言葉は強くも穏やかで、優しさがあった。
ミーシャの心が、少しだけ落ち着く。
「どこで、タクシィを解放したの?」
声はまだ震えていたが、少しずつ真実を受け入れる心持ちになっていた。
タクシィは応える。
『あの山の、エザフォスと出会った山の向こうだ。またここにおまえを迎えに来る途中だった』
ミーシャの肩が大きく震える。
(お父さんが……迎えに? 約束を守ってくれるつもりだったんだ!)
父のその気持ちだけでも、嬉しかった。疑っていた自分を責めた。
そんなミーシャの内面の対立を、タクシィはやはり分かっていた。
『おまえを迎えに来なかったことは、事実だ』
「うん、でも、……やっぱり嬉しいよ。お父さんは、あたしのことを見捨ててなかった」
ミーシャが言えば、タクシィも『そうだな』と同意した。
「タクシィ、お父さんの身に何があったの?」
『強大な力を持った奴と出会ってしまったのだ。あと少しで山に差しかかる、そんな時分だった。狭間の穴が、スィエラの行く末を阻むように開いた。その上、相手は火を操る者だった』
疲れ切ったスィエラに追い打ちをかけるように、反属性の幻獣が牙を剥いた。
タクシィとハオスも、反撃の際にかなり痛手を負ったようだ。
「それで、あの破壊力だったの……? タクシィ……」
『痛手を負った獣ほど何とやら、と言うのだろう? まあ、我は鳥だが』
タクシィの冗談にミーシャはくすりと笑った。
だが、それでもあの潜在能力の高さを持つタクシィをも寄せ付けない幻獣と、父は対峙していたことになる。
本当に、それで生き延びているのか――?




