番外編2 幻獣の散歩-3-
『俺様はあまり人といなかったからな。これほどまでに良いものだとは、正直思わなかった』
『我も、……こんなにも思うことはなかったさ』
ミーシャの前には、彼女の父親、その前にも、そのまた前にも、タクシィは人が魔法を使うためにある家系に飼われていた。
ミーシャの父は、己が家系に飼われていると感じ、故郷を飛び出したのだった。
それは、タクシィにとって驚く出来事だった。
当たり前のことが、当たり前でなくなる。
人間と同じような感覚に陥っていたのかもしれない。
片割れの鷹は、嘲笑っていた。これで、思う存分に破壊ができると――
《あいつは今、どこにいる?》
タクシィ・アエトスは、本来二体で行動していたのだ。
それが、あることがキッカケとなり、タクシィは一体でこの街へ舞い戻った。
そして、ミーシャを見つけた。
『堅苦しいことはなしにしようぜ! せっかくの散歩日和なんだからよ!』
アベレスが言った。
タクシィもそれには賛同した。
『よし、まずは賑わている大通りに行ってみようぜ! タクシィ』
『ああ』
屋根を伝うアベレスの後ろを飛んでいると、子ども達が面白がって指をさした。
「みてみて! とりさんととネコさんが、いっしょにおさんぽしているよ!」
「とりさん、たべられないのかな?」
「きっとなかよしさんなんだよ」
下からのその声に、アベレスとタクシィは顔を見合わせる。
『仲良し、さん』
『まあ、悪くない』
『我は、悪い』
『なんでだ⁉ 素直ではないな、全く』
拗ねるアベレスに、『冗談だ』と言えば、獅子はどこか照れ臭そうにしていた。
こんな風に同じ幻獣と会話をしながら街を見るような関係になるとは、思っていなかった。
『おぉ! タクシィ! あれは何だ⁉ ギラギラ光っているぞ!』
『あれは、宝石だな。目が……見ているとやられてしまいそうだ』
『おぉ! すごいぞ! こっちは大きな布がある!』
『ここはよくミーシャがよる服屋だ。人間の女性は、おしゃれというものをしなくてはいけないらしい』
『へぇ。エザフォスが、カッコいい武器を持ちたいって思うようなものか』
『だろうな』
『人間とは、格好も気にしなければならないのか。大変だな』
アベレス達は、生まれて消えるまでこの姿だ。
それに、アベレスは自分の姿を気に入っている。毎日ミーシャに鬣を梳いてもらい、しっかりとキメるのが、アベレスの今の流行だった。




