番外編 がんばれ! 新人君!-3-
「ちょっとでもいいから、会いたかったんですよ! 見てほしかったんですってばぁ!」
「いや、だから今会いに来てるし、見てるじゃないか?」
「違うんですよぉ。僕がちゃんと仕事をしている姿を見てほしかったんです!」
「分かった、分かったから。今度見るよ」
「必ずですよ? 絶対ですよ?」
「ああ、分かったよ!」
カズホが、先日受付で対応したヴァソスからお礼の品を受け取り宿屋に戻れば、バウルがいた。
彼は涙目で、一瞬何事かと思った。
また失敗したのか、と心配したら、この言い分である。
「先輩、今度、猫を見に行きましょう! 可愛いんですよ! すっごく人懐っこいんです!」
「はあ? 猫くらい一人で見に行けよ?」
「先輩とがいいんです! 先輩と見に行きたいんです!」
「分かった! 分かったから、大きな声で言うな」
「やったぁ!」
「だぁあ! 抱きつくなぁ! 人が変な目で見てるだろ⁉」
あれだけ警戒して、突っ撥ねていたのに、助けた次の日からこれだった。
何がどうなっているのか、カズホも分からない。
『モテる男は辛いな、カズホ』
ルベルが笑いを堪えるように言った。
(絶対に違うからぁ!)
宿屋の前でバウルに抱きつかれたまま、どうしようもできないでいると――
「なっ、……何してんの? カズホ?」
「へっ? ミーシャ」
「おうおう、男を垂らし込んだのか? カズホ」
「えっ、エザフォス! ちっ、違うんだぁ⁉」
『まあ、口移しをした関係だからな』
「くちうつっ……余計なことを言うなよ! ルベル!」
「口移し?」
「先輩が僕を生き返らせてくれたんです! 口移しで空気を送ってくれて!」
「説明! 説明に語弊が!」
ミーシャの顔が怖くなる。
「ふぅん。男の人にモテて良かったわね、カズホ」
「だからぁ、違うんだぁ……! ミーシャ! ちょっ、ちょっと待って!」
「もう知らない」
カズホの叫びは、夕闇の中に消えていった。




