手助け
チェーブはふと思いついて、カウンターのフェレストの元へと駆け寄った。無理やりタータの横に入り込んで質問をする。
「フェレストさん、例の商業ギルドって名前なんだっけ?」
「例の?何のこったそりゃ。」
毛皮の傷を調べていたフェレストはいきなりの質問に首を傾げる。タータは狭くなったせいで迷惑顔だが、急いでいると分かったためか何も言わない。
「アレだよアレ。見習いでやらかしてたとこ。」
「ああ、アレな。連中のせいでこっちも仕事が増えちまってよ。いい迷惑だぜ、まったくよ。」
名前の答えはなく、何故か愚痴が始まってしまった。フェレストは相手の焦りや急かしはあまり気にしない癖がある。用心深い性格と合わさって狩猟者時代は機を逃しがちだったが、お蔭で引退まで大怪我もなく生き残っている。
「今はそんなのいいから。名前だよ、名前。」
「んだよ、お前は復帰したからそう言うけどよ。まともに割食ってる俺の身にもなってみろってんだ。そういや、お嬢ちゃんもこれでクリアだったな。そっちの書類も作んねえとなあ。」
「分かったから!愚痴は今度聞くから!名前!」
どうにもこちらの様子を鑑みないフェレストに、チェーブはさすがに大声になってしまう。フェレストはハァと小さくため息を付いてから、面倒臭そうに答えた。
「ったく何慌ててんだよ。あそこは“スクラヴ商業ギルド”だな。」
「“楓の天秤”が目印の?」
「そう、それだ。ギルドは取り潰されなかったが、関わってた連中は全部捕まってんぜ。責任者は監獄送りだったか。」
「うし、探すぐらいなら出来そうだな。じゃあ俺帰っから、あと頼んだ。」
「うぇ?!」
名前を聞いたチェーブはタータの肩にポンと手を置いて、小走り気味に出口へ向かう。カウンターの2人は呆気にとられてしまった。
「おい!弟子放ってどこ行くんだ!」
「買い取りを1人でこなす修行さ!じゃあな!」
フェレストの呼び止めに強引な言い訳をして、チェーブはギルドを後にする。だが、止まり木亭へは向かわない。これからスクラヴ商業ギルドの馬車を探すつもりだ。宿に帰る時間も惜しいのだ。
そのまま路地を歩いていると、腰をバシンと叩かれた。横を見ると追いかけてきたタータが仏頂面で見上げていた。
「急にどうしたんだよ?」
「ダチがバタついてっから手伝おうってな。」
「それだけか?」
「相変わらず鋭いなあ・・・実は嫌な予感がしてる。」
ギルドでスクッドシグを見てから、チェーブの勘は警鐘を鳴らし続けていた。恐らく今日、何かがある。そう確信していた。
「あの様子見りゃ大体分からぁな。英雄絡みだろ?脱獄か?」
「なっ・・・よく分かるな、おい。」
「カマかけただけさ。まさか本当にそうだとは思わなかったぜ。」
「ぐぅ・・・ずりぃぞ、それ。」
引っかかってしまったチェーブは思わず立ち止まり、苦い顔で頭を抱える。機密事項だと言われたのに、早速バレてしまった。しかも自分の迂闊さで。その様子を見てタータはやれやれと両手を上げた。
「大体よ、隊長が重装備で出張ってて、お前に用があるってんだ。それぐらいしかねぇだろ。あとは英雄のシンパの暴走ぐらいか。」
「よく見てんなー・・・敵わねーわ。」
チェーブは参ったと少し上を見上げながら、目を覆うように手をパチンと顔に乗せた。この師匠は、僅かな情報で様々なことを言い当てる名人だ。師事していたころには狩りでもよく見せつけられた。バレても仕方ない相手だし、黙ってればいいと気持ちを切り替える。
タータはその様子を腰に手を当てて見ていたが、チェーブの表情が変わったところで話しかけた。
「しっかしまた面倒なことになってんな。で、どうすんだ?」
「どうって?」
「俺もやるって言ってんだよ。これからなにすんだ?」
「えぇ?でもタータさん、野郎が近くにいたらよ・・・。」
「なに、また蹴りを入れてやるさ。」
ニヤリと不敵に笑いながらタータが宣言した。強がりなのかもしれないが、その頼もしさにチェーブは断ることを忘れ、礼を言うしか無くなってしまった。
「すまねえ、ありがとうタータさん。」
「礼は甘味でも奢ってくれりゃいいさ。ほんで、馬車でも探すのか?」
「そこまで分かってんのか。」
さすがに話が早い。チェーブは再び歩き出しながら、自分の考えを伝える。恐らくはタータも分かっているのだろうが、声に出して言うことは確認の意味でも重要だ。
「探すのはスクラヴ商業ギルドの馬車だな。」
「根拠は?」
「城からは馬車で出たらしいけど、城へ出入り出来るのは貴族の馬車だけだ。どっかで乗り換えてるはず。」
「まぁ、貴族の馬車だと目立つからな。他の可能性は?」
「片手片足を骨折してんだ。馬も無理だし歩きじゃ目立つ。屋根付きと幌付きが怪しいな。」
2人は話しながら裏通りへと入っていく。ここも馬車が走れる程度には広い。左右を見渡しながら、そのまま道沿いに進んでいく。
「ギルドの馬車って言っても、ギルド章は外してんじゃねぇのか?」
「普通はギルド章の板を打ち付けるか下げるもんだけど、あそこのは馬車に直接刻むんだ。盗難防止も兼ねてな。」
「よく知ってんな。」
「飲み仲間の商人から聞いた。中古で流すときに値段が下がるのにって馬鹿にしてたぜ。」
馬車は高級品だ。大商人やギルドでもなければ新品では買えない。払い下げるときは少しでも元を取るべく、なるべく高く売りたがるのが普通だ。わざわざ価値を下げる加工をするのは馬鹿らしく見えたのだろう。
「つまり隠してるか、削り取った馬車が怪しいってことか。」
「あえてそんままにしてるかも。取り潰されなかったって話だし。あと、たぶん騎士が付いてる。」
「英雄様のシンパか。」
「だろーな。所在不明の騎士ってのが何人もいるってさ。」
「ってことは確かに平馬車は無いな。もう、街を出たってのは?」
「街の出入り口は封鎖してるってよ。」
話していると裏通りが大通りへ合流するところまで来てしまった。この付近はハズレだ。
「あとは探すだけなんだけど、広いんだよなー。」
「それよか見つけたとしても、衛兵に伝えるまでに移動されちまうぞ?」
「うっ、それがあったか。」
思わず飛び出してしまったチェーブだったが、そこまでは考えていなかった。先入観から隠れているだろうと思ってしまい、息を潜めて止まっているイメージが強かったせいだ。
項垂れているチェーブを余所に、タータは立ち止まって顎先に指を添えて考え込んでいた。そして、ふと思いついたように顔を上げる。
「そういやあれが使えるか。」
「あれってのは?」
「見た目はちょっとアレなんだけどよ。魔法使いが置いてった魔道具があんのさ。」
「バレたら面倒になるんじゃねーの?」
「絶対にバレないように作ってあんだよ。面倒なことにな。」
タータは苦笑しながら、やれやれと首を振った。




