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発見

 チェーブは城から南東にある裏路地を早足で歩いていた。今は1人だ。タータは魔道具を取りに宿屋へ行っている。この路地を調べることは伝えているから、気配でチェーブの居場所を探して合流してくるだろう。


 街は緩やかな丘陵地にあるが、所々で道を敷けない急な斜面もある。この路地沿いもそうで、城が見える側は緩やかに登っているが、逆側は崖に近い傾斜があった。高さは3階建ての止まり木亭よりも、さらに2階分ほど高いだろうか。


「見当たらねーなー・・・。」

「やっと追いついたぜ。どうだ?」

「ん?おお、タータさんか。今のとこ、ってまた随分と可愛らしいもんを。」


 チェーブが振り返ると、猫のぬいぐるみを小脇に抱えたタータがいた。ちょうど細路地から出てきたところのようだ。チェーブは猫のぬいぐるみを指さしながら半笑いで念のために聞いた。


「まさかとは思うんだけどさ。」

「あぁ、コイツが例のヤツ(魔道具)なんだよ。」

「マジで?」

「マジだ。」


 しばし時が止まり、チェーブはため息とともに動き出す。


「なんでこんな見た目に・・・ってあの人(魔法使い)だしなあ。」

「ん、そうだ。アイツ(魔法使い)の考えることはよく分からねぇもんだ。考えても仕方ないこった。」

「なんでそんなもんタータさんに・・・ってあの人(魔法使い)に理由求めてもしょうがねーか。」

「あぁ。アイツ(魔法使い)のやることは深く考えても意味がないんだ。」


 タータは深く突っ込まれないように、全てを魔法使いのせいにした。普段は他人のせいにはしないのだが、どうせここにいないし、いつも面倒をかけられてるのだからいいだろうとの考えだ。


「で、これ何が出来るんだ?」

「コイツはな、ちょっと左腕出せ。」


 スタスタとチェーブに近寄り、出された左腕の手甲に猫のぬいぐるみを押し付けた。


「まずな、こうやってくっ付けることが出来る。」

「おお。」


 猫のぬいぐるみは短い手足を精一杯伸ばして、チェーブの腕にガシッとしがみついた。チェーブはそれを見て少し感動したが、このままだと邪魔だと気付いて剥がそうと試みる。


「ん?これ外れねーな、よいしょおおおおおおお。」

「ヤメロ!痛が・・・壊れんだろが!」


 思わず「痛がってる」と言いそうになったタータだったが、既の所で言い直した。チェーブにバレてしまっては体のいい“からかい”のネタにされてしまう。それだけは避けなければならない。


「え、そうなのか?」

「たぶんな。見た目も中身も完全にぬいぐるみなんだよ、コイツ。」

例のヤツ(魔道具)じゃないってことか?」

「いや、そうなんだけどよ。誰が触っても調べてもぬいぐるみだけど例のヤツ(魔道具)なんだ。」

「マジで?」

「マジだ。」


 チェーブは再び固まった。理解が追いついていないのか、少しづつ理解しようとしているのか、空を見上げながら時々うなずいている。が、最後には首を横に振った。


「もう、どう反応していいかすら分からねーよ・・・。」

「細かいことは置いとくとしてだ。俺はコイツの場所が大体分かる。」

「心が通じ合ってるとかか?」

「まぁ・・・違ぇよ!」


 今度は“まぁな”と言いかけてしまった。チェーブが深く考えることを止めたのを見て、少し油断してしまったようだ。内心で冷や汗をかきながら説明を続ける。


「コイツ、俺とある程度離れると生き物みたいに気配を出すんだよ。」

「うへ、気持ち悪いな。でもそれ、意味あんのか?」

「無ぇ。でも、それが今回は役に立つ。」


 気持ち悪いの一言に少しイラッと来たタータは、一度言葉を止めて深呼吸をする。そして心を落ち着けてから、顔の前に人差し指を立てながら説明を再開した。


「コイツはかなり離れてても分かる、独特の気配を持ってんだ。止まり木亭に置いたままで北町の手前にいても分かるぐらいだ。」

「うわ・・・やっぱあの人(魔法使い)が作った例のもの(魔道具)だな。」


 チェーブは左腕にしがみついたままの猫のぬいぐるみを、汚いものでも見るかのような表情で見てしまう。熱心に気配を探る練習をしているからこそ、その異常性が分かるのだ。一方で猫のぬいぐるみを嫌そうに見られたことで、タータは少し苛立ったような口調になった。


「つまりだ。見つけた馬車をお前がコイツ持って追いかけろ。で、俺が衛兵に知らせに行く。これならどんだけ移動されても問題はねぇ。多少乱暴に走ろうが外れねぇしな。」

「いや、問題ありありなんだけど。」

「何がだ?」

「俺がこれ持ってウロウロするってことだよな?」

「問題ねぇな。」

「あんだろ!斧背負って鎧に手甲足甲付けてんだぞ?」

「むさい見た目も可愛いぬいぐるみと合わさりゃ、多少は中和されんだろ。」

「可愛いかコレ?」


 どう見てもふてぶてしいデブ猫だ。一般的には小さく、庇護欲をそそられるモノを可愛いというのだから、チェーブの疑問はもっともだろう。ただ、タータは、何を言ってるんだと呆れた顔をしていた。分かっていな、と言わんばかりだ。


 その時突然、タータがブルリと震え、身体を抱くようにして周りを見回し始めた。


「クソ、震えが来た。近くに魔力が強いのがいる。2人だ。」

「えぇ?この辺は見て回ったけどそれっぽいのは」


 この辺りをくまなく見ていたチェーブが異議を唱えようとしたとき、タータが斜面の上を指さして叫んだ。


「向こうか。おい、あれ!」

「間違いねえ、あれだ!紋章そんままとか油断してんな、野郎!」


 斜面の上にある道を馬車が通っているのが見えた。紅葉と天秤の紋章をつけた屋根付きの、探していた馬車だ。だが、あの道はこちらには繋がっていない。大きく迂回しなければ追いかけることも出来ない。


「クソ、離れて行っちまう!こっからじゃ無理か。」

「よし、チェーブ来い!」


 斜面の近くに中腰になったタータが声をかける。両手の指を組んで、何か細いものを持つような姿勢だ。


「おい、まさか。」

「昔やったアレだ!行って来い!」

「しゃーねえか・・・頼むぜ、タータさん。」


 咄嗟に理解したチェーブが、小さな両手の上に片足を乗せる。まだ弟子だったころにやったことがある、人を高台に上げる方法だ。


 組んだ手を踏み台にして、それを振り上げるのに合わせて飛び上がる。祭りなどで芸人が見せる技の1つでもある。2人でタイミングを合わせれば、かなりの高さまで飛べる。ましてや狩猟者の怪力が合わさるのだ。この斜面程度ならば超えられるだろう。


「行くぜ、チェーブ!」

「あいよ!」

「せーのッ!おらあああ!」

「せーのっ!おわあああああ!」


 声を合わせ、タータは反るように後ろに倒れながら腕を振り上げ、チェーブは片足で思い切り跳躍する。飛ばされたチェーブは一気に斜面の上を超えた。しかし、思ったよりも飛んでしまった。どちらも“腹の底から出る力”を意識して使ったせいで、力が出すぎたのだろう。


 斜面に対して背を向けたまま飛ばされたチェーブだったが、なんとか空中で体勢を立て直し着地には成功していた。見えない方向に飛んだのが怖かったのか顔が真っ青になっている。下からも見えるのは、飛びすぎて斜面近くの家の屋根に降りたからだ。こちらに手を振ったので無事だろうと判断したタータは、起き上がって背中や尻を叩いてから1人呟いた。


「さて、あの衛兵に知らせに行きますかね。」


 周りの迷惑にならない程度に速度を上げて、タータが走っていく。見上げればまばらに出始めた雲の下を、鳶が鳴きながら優雅に舞っていた。


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